まだ外出自粛が解除されずに山には行けない。こういう時は山の麓に住んでいる人がうらやましくなる。

 

図書館は閉鎖、本も届かないので、どうしても積読状態になっていた本を読むことになる。今回は、「The Plot Against America」、

skidelskyの「Oswald Mosley」と「keynes」の流れで、ある本にたどり着いた。それはDavid Irving (DI)の「Churchill's war: The Struggle for Power」だ。購入した日は、1990年2月27日、購入した場所は今はもうない銀座の洋書専門店「Jena」。ちょっと調べてみると、この年はDavid Irvingの作品を何冊も購入しているのだ。

 

 

さてこの作品について書く前に、知らない方のために、このDavid Irvingについて、ちょっと紹介。英語だけでなく日本語でのwikipediaもある人物。これらを見ていただければ、ある程度, 彼についての輪郭を得ることは可能だろう。そう、彼はいわゆる「歴史修正主義」の語り手なのだ。

 

この歴史修正主義というテーマだが、これは僕が生半可な知識で語れるようなテーマではない。これについては、福井義高氏の「日本人が知らない最先端の世界史」を読んでいただくのが一番。

 

 

 

一言でいうと、その名の通り、「正統」な歴史解釈への挑戦。西側では、この修正主義に基づく歴史解釈が一つの無視できない流れを維持しており、ある限定の下で、一定の発表の機会や出版のスペースがこの解釈に基づく作品にも与えられてきた。DI自身はアカデミズムの学者ではないのだが、その資料(特に戦前のドイツ関係)の探索の徹底さは、それなりに学者からも評価 (maverick historian) されており、許容された範囲の中で、一定の読者層を確保し、名の通った出版社から継続してその著作を発行していた。当時の作品はいくつか邦訳もされており、僕が最初に彼の作品を読んだのは、早川書房から出された「ヒトラーの戦争」だった。

 

 

 

 

ところが80年代の後半から何か歯車が狂い始めたようなのだ。今回再び手に取ったこの「Churchill's war」だが、出版は1987年。出版社はArrow。それまでは、日本の洋書店で簡単に入手できた彼の作品だが、このころから、なかなか彼の作品の入手が困難となっていった記憶がある。だいぶ昔の記憶なのであやふやなのだが、その辺の何とも言えない漠とした不安感があってだろうか、1990年に、彼の作品をまとめ買いしたのかもしれない。

 

ここからは、想像の域を出ないのだが、DIはこの「Churchill's war」で虎の尾を踏んでしまったのかもしれない。これは従来のチャーチル神話を徹底的に破壊しまくった作品なのだ。ちょうどその時期には、チャーチル家公認ともいうべきauthorised biographyが出版されていた記憶もある。ただ、1990年代の初頭には、別の修正主義の論者John Charmely の「Churchill: the end of glory」が出版されており、未読だが、ほぼDIに近い結論を出しているようなのだ。

 

 

 

 

その後、どういう経緯なのか、その詳細はわからないし、理解もできない。彼は、いわゆる「ホロコースト否定論者」として西側の学会、メディア、出版界から総攻撃を受けて孤立無援の状態となり、社会からは葬りさられることになったようだ。この辺の事情は、wikiの英語版に詳しい。というわけで、もはや通常の出版社からの著作の発表というルートは閉じられてしまったようだ。amazonの中古で彼の作品は入手可能なのだが、その値段は非常に高い。

 

ところが、驚いたことに、彼のサイトは未だに存在しており、そこからは、彼の著作が、値段は高いのだが、いまだに入手できる。というか、一部の作品は、この「Churchill's War」を含めて、PDF化されており、全文がそこで読めるようになっているのだ。

 

今回は著者紹介にとどまってしまったが、次はその中身について。