勝手に論愚選 【読売俳壇2024.01.29】年間賞 俳句② | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

勝手に論愚選
【読売俳壇2024.01.29】
[矢島 渚男 選]
大仏の裏の寒さのしづかなり (吉川市 人見 正)
当番で神社にこもり年を越す (京都市 山田 国雄)
振り上げし幣(ぬさ)天井に触る神楽 (熊谷市 田島 良生)
牡蠣船の屋号浮き立つ大漁旗 (東大阪市 梶田 高清)
枯草の触れあふ影の優しさよ (東京都 杉中 元敏)
持ちを搗く嘗てその手でゲバ棒を (栃木県 あらゐ ひとし)

[高野 ムツオ 選]
妖精のをどる馬穴の厚氷 (周南市 木船 君枝)
(評)庭の隅に放置しておいた馬穴(ばけつ)にいつの間にか厚い氷が張っていた。ふとその上に踊る妖精の姿を見つけた。幻像かもしれない。フィギュア教義のスケートリンクを想像したせいかもしれない。
冬菫かつてここより見えた家 (東京都 中島 徒雁)
浮き上がる柚の力や冬至風呂 (横浜市 高橋 功夫)
昇降機星空へ伸ぶ大晦日 (川崎市 大野 宥之介)

[正木 ゆう子 選]
年用意子と先々をこじらせて (旭市 工藤 豊)
福寿草伯母母叔母の三姉妹 (横浜市 飯島 まゆみ)
球体を滑り落ち来る寒波かな (白井市 毘舎利 道弘)
百歳の風景見たしなずな粥 (取手市 小日向 教明)

[小澤 實 選]
女正月祖母の遺品の春画観る (大津市 星野 暁)
ダイヤル式テレビがちやがちや大晦日 (伊勢市 藤田 ゆきまち)
歩く鳴く石突く歩く鳴く千鳥 (横浜市 岡 一夏)
ただ笑う母と二人で日向ぼこ (山口県 是長 勝)

年間賞 俳句②
拭き上げてコード細しよ冷蔵庫 (川崎市 井手 真知子)
(評)濡らした布で挟むようにして、埃をかぶったコードを拭く。長いコードをしごくようにして拭き上げるとき、冷蔵庫は働き者なのに、コードは案外細いんだなと思ったことが私にもあったが、言葉にはしなかった。同じことを多くの読者は思うだろう。世界情勢や宇宙を詠むわけではないこんな句にも、俳句の確かな場がある。(正木ゆう子)
人生でいちばん水分とった夏 (相模原市 相模湖 福幹)
(評)昨夏は非常に暑く、とても永かった。水分を十分に取らないと、生命の危険さえ感じる暑さだった。ぼくも外出時には水筒を持ち歩いて、よく水を飲んだ、この作者の感じた「人生でいちばん水分とった」というところに共感する。自分自身の肉体を通して、この夏を捉えている。「とった」という口語のざっくばらんなところもいい。(小澤實)