編集手帳8月30日(読売新聞) | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

編集手帳8月30日(読売新聞)

 哲学の庶民への普及を理想に掲げた哲学者の井上円了が、東京・中野に道場を開設したのは今から約100年前のことだ。現在は哲学堂公園として整備され、地域の憩いの場となっている◆カントや孔子らの業績を伝える四聖堂や散策路が当時の面影を伝えている。古今東西の哲学を体感できる“テーマパーク”のような施設だったのだろう。だが、円了の理想とは裏腹に、哲学は実用性に乏しい学問と受け止められてきた◆その誤解が、今ようやく解かれつつあるのかもしれない。米ハーバード大学で人気の哲学講義を持つマイケル・サンデル教授の「これからの『正義』の話をしよう」の邦訳本がベストセラーとなっている。先日、東大・安田講堂で行われた教授の特別授業も、約1000人の聴講者で満席となった◆オバマ大統領は広島、長崎の原爆投下に責任があるのか。所得格差の拡大をどう考えるか――。教授はカントやベンサム、アリストテレスらに依(よ)りながら問題を整理して論じていった◆古典哲学が現代の複雑な問題に論理的な回答を用意している。哲学とは何かについて改めて考えさせられる。