ちんぷんかん (新潮文庫)/畠中 恵
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 本日ご紹介するのは、畠中恵さん作『ちんぷんかん』です

 昨日、待望の文庫が発売しました

 この作品は、NEWSの手越祐也さん主演でテレビドラマ化した「しゃばけ」「うそうそ」 でお馴染みの「しゃばけ」シリーズの第6作です

 私はこのシリーズだけは待ちきれずに単行本で買ってしまうので、既に読了しております

 いつもは収納場所や価格のことを考えて文庫落ちまで待つことにしているのですが、「しゃばけ」シリーズは早く続編を読みたいという欲求が勝ってしまうほど面白いのです


 『ちんぷんかん』は5編の短編を収録しています

 その中から表題作の「ちんぷんかん」について書いていきます


 「しゃばけ」シリーズの主人公は、江戸日本橋の大店、長崎屋の跡取り息子・一太郎です

 一太郎は生まれつき病弱で、今までも何度も死に掛かっています

 ですから、両親や奉公人たちに過保護なほどに大切にされています

 両親の親バカっぷりもさることながら、兄やである仁吉と佐助の溺愛っぷりもすさまじいものがあります

 そんなふうに育てられたら、我儘一杯の子どもになってしまいそうですが、一太郎には無縁です

 おっとりとしていて、心優しく、思慮深い少年なのです

 そして彼には普通の人とは異なる能力があります

 人には見えない妖怪の姿が見えるのです

 それもそのはず

 彼は人間と妖怪のクォーターなのです

 実は、兄やである仁吉と佐助は力の強い大妖怪

 他にも長崎屋には一太郎を慕うたくさんの妖怪が巣食っています

 病弱で行動範囲の限られる一太郎は、妖怪たちに協力してもらって、安楽椅子探偵よろしく様々な難題を解決するトラブルシューターでもあります


 主役は一太郎ですが、「ちんぷんかん」でのメインは上野広徳寺の高僧・寛朝の唯一の弟子である秋英です

 秋英は武家の三男に生まれ、幼いときに広徳寺に修行に出された身の上

 入門してすぐに寛朝の弟子に迎えられましたが、その抜擢に周囲は冷ややかです

 なぜなら、寛朝は妖怪封じを得意とする高僧

 その弟子というからには、妖怪封じの術を継承することを求められるのです

 しかし、秋英にはその才能がないと評価されているのです

 そんな折、秋英は一太郎からの訪問を受けていた寛朝から、寛朝を訪ねてきた他の相談客の接待を命じられます

 その客は六右衛門と名乗り、娘が和算の教科書の挿絵の男に懸想して困っていると打ち明けます

 そしてその男の絵が本の中で動くというのです

 六右衛門にその本を見せられ、覗き込んだ秋英は、なんと本の世界に吸い込まれ、本の中に閉じ込められてしまいます

 六右衛門は実は人間に化けた妖怪だったのです

 六右衛門は本から出す条件として、長崎屋一太郎の異母兄・松之助との縁談を取り持つか、和算の問題で勝負しろと迫ります

 縁談の仲人を拒否した秋英は六右衛門と勝負することになります

 さてさて、秋英は無事に本の中から抜け出すことが出来るのでしょうか


 実は秋英、妖怪を見る力を持っています

 しかし、自分ではそのことに気づいていません

 そのため周囲からの評価を真に受けて、自分を役立たずだと思い込んでいます

 今回の寛朝の命は、そんな自己評価の低い秋英に対する荒療治です

 物語の終盤、寛朝は秋英に言います

 「…人であるからには、己を信じねばやっていけぬよ。もっと己を頼みにすることを覚え、自信を持たなければな」

 もっと早くこの言葉を掛けてもらえていたら、秋英ももっと気楽に生きてこれたと思いますが、何の壁にもぶつからないでいることは真の成長に繋がらなかったかもしれません

 困難を排したあとに与えられた師匠からの言葉には重みがあったと思います

 私もどちらかというと自分に自信がないので、この言葉はとても胸に沁みました


 この作品に興味を持った方に他にもおススメしたい作品があります

 香月日輪さん作「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズです

 現在、『妖怪アパートの幽雅な日常①』『妖怪アパートの幽雅な日常②』 が講談社文庫で文庫化されています

 12月には第3作目が発売予定です

 「しゃばけ」シリーズ同様、気のいい妖怪たちがわんさか登場します

 ひょんなことから妖怪アパートの住人となった稲葉少年が、アパートの住人や住妖怪に見守られ助けられながら成長していく物語です

 本選びの参考にしていただけたら幸いです