夢の守り人 (新潮文庫)/上橋 菜穂子
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 この作品は、『精霊の守り人』『闇の守り人』 と続いた「守り人」シリーズの第3弾です

 『夢の守り人』では、主人公の女用心棒・バルサの他、第1弾の『精霊の守り人』で登場したキャラクターが再登場します

 『精霊の守り人』でバルサに守られて旅をした皇子・チャグム

 バルサの幼馴染で呪術師のタンダ

 タンダの師にして世界最高の大呪術師・トロガイ

 それぞれの物語が絡まりあって『夢の守り人』という一つの物語が出来上がっています


 今回のお話は、この世ならぬ場所に咲く〈花〉のお話

 この〈花〉は人の夢を養分にして育ちます

 〈花〉の開花の時期を迎え、たくさんの夢たちが〈花〉に吸い寄せられます

 そのため、夢から覚めず眠り続ける人々が現れます

 彼らは何日も眠ったまま食事を採ることをしないので、徐々に衰弱していきます

 タンダの姪・カヤもその一人

 カヤが眠ったまま死んでしまうことを危ぶんだタンダは、師であるトロガイの制止も聞かず、カヤの夢の中に入り込む呪術を行って目覚めるように働きかけますが、夢の中にいた〈花〉の番人に逆に捕らえられてしまいます

 タンダを救おうとするバルサとトロガイ

 夢の中でタンダからのメッセージを受け取ったチャグムと共に、タンダと夢から覚めぬ人々を助けるために奔走します


 この作品では、「優しさ」について考えさせられました

 今回、人を助けようとして助けられる側に回ってしまったタンダ

 これは彼の優しさから出た行動です

 しかし、優しさとは長所であると同時に弱点でもあります

 この世には人の優しさにつけこんで悪事を働く人間もいます

 そういう人間につけこまれやすいということがあります

 また、目の前で困っている人を見捨てて置けずに、自分を犠牲にしてしまうこともあります

 優しさが自らの不利益を招いてしまうのです

 不利益、などというととても利己的に聞こえます

 むしろ自己犠牲の精神は美しいと崇められるかもしれません

 しかし私は、自分の利益を守れないものに人など救えないと思うのです

 優しさは尊い性質です

 でも優しさはそれ単体では不完全です

 プラスアルファとして必要なものは何なのか

 それが強さなのかどうか

 強さだとしたら、どういう種類の強さなのか

 優しくあるために考えなければいけないと思いました


 さて、『夢の守り人』を気に入って下さった方におススメする次なる作品は、逆に時雨沢恵一さんの『キノの旅』などはいかがでしょう(『キノの旅』『キノの旅Ⅱ』『キノの旅Ⅲ』『キノの旅Ⅳ』

 『キノの旅』は情に左右されない若者が主人公です

 真逆の人間を知れば、優しさとは何か、優しい人間に必要なものは何かが分かるかもしれません

 それから、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』

 弱虫だった男の子が異世界を旅し、一回り強くなるお話です

 今回は触れませんでしたが、『夢の守り人』のもう一人の立役者である皇子・チャグムに思い入れている方にはおススメです

 男の子が自分の責任に目覚め、受け容れ、そして立ち向かっていく姿が描かれています

 そういう意味では小野不由美さんの「十二国記」シリーズもおススメです

 自らの運命に抗いながら、やがて統治者の自覚を養っていくお話が多数あります

 本探しの参考にしていただけたら幸いです