キノの旅〈2〉the Beautiful World (電撃文庫)/時雨沢 恵一
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 人語を話すモトラド(単車)であるエルメスと人間キノのロードムービー的な作品です

 前作『キノの旅』に引き続き第2作目を読みました

 『キノの旅』の感想では、星新一さんのショートショートを思わせると書きましたが、この『キノの旅Ⅱ』を読んで新井素子さんを思い出しました

 淡々とした端正な文章でありながら、グロテスクな描写も含み、そのギャップに驚いてしまうところがそっくりです

 その手法によって、人の心の暗部を誇張なく伝えているように思われます

 普通なら顔を背け、見なかったことにし、隠し、偽ろうとするような醜い部分を、切り取って直視することは生半な苦痛ではないと思われますが、時雨沢さんはやってのけますね~

 読んでるこちら側も痛いです

 この作品を読んでいると、正しいとは何なのかについて、再考させられます

 私は、個人個人の中にそれぞれの正義があると思っていますが、それを肯定することに躊躇を覚えます

 一方の正義が他方の悲劇を生むこともあり得る

 そんな思いを抱かせる作品です


 第1話「人を喰った話」

 どんな時でも生きることを諦めてはいけないと多くの人は言います

 しかし、どんなことをしても生きようとすることに浅ましさを覚えることもある

 そんな話です


 第2話「過保護」

 過保護な母親と、それを過保護だと非難する父親

 どっちが正しい?

 本当に保護するべきものは何か?


 第3話「魔法使いの国」

 自然界の法則を利用することが魔法なら、科学も魔法かもね


 第4話「自由報道の国」

 報道って、自分の意見を手前勝手に垂れ流すことなのでしょうか?

 事実をありのまま克明かつ詳細に発表してくれれば用は足りると思うのですが…


 第5話「絵の話」

 人とはいかに勝手なものであるかということを思い知らされます

 意図せずに祭り上げられたカリスマの栄枯盛衰


 第6話「帰郷」

 親孝行 したいときには 親はなし、です


 第7話「本の話」

 読書の盛んな国では、読むことが尊ばれ、本の批評と討論が日常会話

 消費することにのみ執心している人々の盲目


 第8話「優しい国」

 死を前にするとこんなにも人は優しくなれる