キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))/時雨沢 恵一
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 喩えて言うなら、星新一さんのショートショートを思わせる作品です

 形式が短編集ということだけでなく、大人向けの暗黒童話、という感じが共通していると思います

 割りに舞台背景がえぐいところなんか、似ています(笑)

 平易な文章の中に、残酷さと狂気が潜んでいるという印象を受けました


 この作品は、主人公のキノと愛車のエルメスが旅をするという設定です

 訪れる国々それぞれに極端な特徴、文化、風習があります

 極端な、と書きましたが、本当にぞっとするくらい極端

 例えば、「人の痛みが分かる国」という話では、人の気持ちがわかればもっとお互いが分かり合えるのに、という考えからテレパシーの技術を編み出します

 しかし、テレパシーを使えるようになった途端、負の感情も相手に伝わってしまって喧嘩になり、それを避けるために一人一人物質的な距離を置いて暮らさざるを得なくなる…という意に反した結果になってしまった、という事情をかかえています

 キノが国民から聞き出した事情は、そのまま読者に対する問題提起です

 テレパシーというと遠くの人に自分の言いたい事を伝えられる便利な手段としか考えていませんでしたが、言いたくない事も伝わるかもしれないという危険性にまでは思い至りませんでした

 伝えたいことを取捨選択できないということは、不便なだけでなく危険です

 だって、悪態だの、悪口だの、エッチな妄想だの、秘密だの、全部ダダ漏れなわけですからね

 便利便利とよく考えもしないで飛びつくのはいかがか、と苦言を呈されたような気分になりました

 いろいろと考えさせられる作品です

 捉え方によってはかなり哲学的

 ライトノベルといえども侮りがたし