ペタしてね ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)/海堂 尊
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ナイチンゲールの沈黙(下) (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)/海堂 尊
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 本日ご紹介するのは、『チームバチスタの栄光』で一世を風靡した海堂尊さんの『ナイチンゲールの沈黙』です

 『チームバチスタの栄光』は、医療ミステリーとして一躍有名になりました

 『ナイチンゲールの沈黙』では『チームバチスタ』でも活躍した田口&白鳥のコンビがまたも活躍します

 前作では、術死した患者が医療ミスで亡くなったのか、殺されたのかという、直接医療現場に結びつく話題がミステリの中心でした

 本作ではそれとは趣を異にして、病院外部で起こった殺人事件がミステリとなっています

 それがなぜ田口&白鳥並び東城大学医学部付属病院に関連してくるかというと、被害者が小児病棟に入院している男児の父親だからです

 また、それだけでなく、被害者の殺され方にも原因があります

 被害者は、殺された後、開腹され、内臓を取り出され、細かく切り刻まれていました

 変質者の犯行との見られますが、解剖の仕方が医療従事者によるものではないかとの疑いもあるのです

 かくして、桜宮警察署の切れ者警視正、電子猟犬とあだ名される加納達也が東城大病院に乗り込んでくることになったのです

 さてさて犯人は誰なのか?というのがこの作品のミステリの肝なのですが、その物語と並行してもう二つの物語が進行しています

 一つは表題の『ナイチンゲール』という言葉に関連した物語なのですが、歌声に秘められた能力についてのお話です

 そちらは本文を読んでいただくことにして、もう一つの物語について少し触れたいと思います

 その物語は私たちに生きるということについて考えさせてくれるお話になっています

 この作品は小児病棟が舞台の一つになっています

 そこに入院する少年と少女がもう一つの物語の主人公です

 少年はレティノブラストーマ(網膜芽種)という眼の癌に侵されており、その治療法は眼球の摘出のみです

 つまり、生きるためには失明というハンデを負わなければならないのです

 しかもその少年の場合、両目にレティノブラストーマが発見されているので、命を取り留めたところでこの先の人生は全盲で生きていかなければなりません

 彼はそんな将来を悲観して、死を望んでいます

 一方、少女は白血病に侵されています

 骨髄移植で治る病気ではありますが、家族からの度重なる移植に失敗し、もはや万策尽きた状態です

 彼女はどんなリスクを背負っても生きたいと願っています

 二人とも難病に侵されているという点では同じですが、生きていくことができる望みがあるのかという点では真逆です

 少年はハンデを背負った人生に絶望し、少女はそれでも生きていられるだけいいと言います

 二人の考え方は対称的ですが、等しく哀しい

 彼らの身の上に降りかかった現実は、あまりにも過酷です

 大人の身が背負うにも重過ぎます

 私は、どんな時も死のうとしてはいけない、というのは綺麗事だと思っています

 生きていると様々な困難に出遭い、いっそ死んでしまったほうが楽ではないかという考えが頭を過ぎることもあります

 だから、二人のうちどちらの考え方のほうが正しいとは、おいそれとは言えません

 きっとこの先、答えを出せないでしょう

 簡単に白黒つけられない問題と、二人への同情に強く心を揺さぶられました

 訴えるところのある良作です

 上下2刊組みで長いですが、是非読んでみていただきたいと思います



警視庁神南署 (ハルキ文庫)/今野 敏
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 2009年に「ハンチョウ」というタイトルで放送されたTVドラマの原作本に当たります

 今野敏さんの人気シリーズ、「安積警部補シリーズ」の中の一冊、『警視庁神南署』をご紹介します

 「ハンチョウ」は、1月11日より続編が放映されますね

 TVドラマをご覧になった方はご存知だと思いますが、主人公の安積警部補は神南署刑事課強行犯係の係長です

 一見優男風ながら、部下思いで信頼できる上司です

 そんな安積を慕う部下たちとの関係が魅力的です


 さて、本作品は、「自業自得」とか「自分で蒔いた種」とか「君子危うきに近寄らず」などといった格言が、次々と脳裏を過ぎる作品です

 普通の銀行員が、ホンの出来心のせいで、破滅への道を転がり落ちていく物語なのです

 彼は、公園でいちゃいちゃするカップルの情事を覗いたことをネタに、親父狩りに遭います

 最初は、自分の行いを棚に上げて、被害者然としていた銀行員ですが、飲み屋である男に話しかけられることから事態は一変します

 一方、親父狩りの件を捜査していた安積たちですが、被害者が急に告訴を取り下げたことに疑問を感じます

 その後、親父狩りに参加していた少年たちが何者かに襲われるという事件が起こります

 二つの事件に不審を抱いき、安積たちは事件の解明に乗り出します

 そこには、巧妙な手口の犯罪がありました

 安積班の刑事たちの個性が謎を解き明かすパズルのような作品です


 さて、この作品に興味を持った方に、他にもおススメしたい作品があります

 『警視庁神南署』の作者、今野敏さんの『ST 警視庁科学特捜班』です

 「ST」はシリーズ物で、現在9冊が文庫化されています

 こちらは刑事ではなく、科学捜査研究所の研究員が捜査活動をするお話です

 個性が強すぎて、まとまりのない集団のようでいて、実はチームワーク抜群の科学者たちが、事件を解決していきます

 次の読書の参考になれば幸いです

 

陰の季節 (文春文庫)/横山 秀夫
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 本日ご紹介するのは、『クライマーズ・ハイ』でお馴染みの横山秀夫さん作『陰の季節』です

 警察を舞台にした小説ですが、他の警察小説とは趣が異なっています

 その最大の理由は、刑事が主役ではないことです

 この作品の中で描かれているのは、警察組織の中の出世争いです


 読了して最初に感じたのは拒絶感でした

 出世争いというのは、どんな職場でも起こることです

 大きな組織になり、序列が設けられればなおさらです

 しかし、警察という組織には、似つかわしい言葉ではないように思うのです

 というよりは、そうあってほしくないという願望かもしれません


 国家の治安、国民の安全を図る警察に、私は公平と高潔さを求めています

 そんな警察の中で、功を争ったり、仲間同士陥れ合ったり、弱みを握って圧力をかけたり、保身に走って裏工作に奔走したりしているなんてことは、想像もしていないことでした

 この作品は勿論フィクションです

 しかし、モデルが存在するのではないかと疑いたくなるくらいにリアリティと説得力があります

 綿密に描かれた人間関係と心裡から、この話が実話であると告げられても驚きはしないでしょう

 この作品の中で語られたようなことが実際に起こっていないとは言い切れませんし、これから起こると容易に想像されうることです

 これはとてもぞっとする話です

 だからこそ私は、この作品のないように拒絶感を感じるのでしょう

 やっていいことと、やってはいけないこと

 そんな基本的な道徳観さえ崩壊させる人間の欲望を垣間見たような気分になり、恐ろしくなりました


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