マイケル・ジャクソンが私にアメリカを思い出させた | 読書至上主義

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毎日1冊は本を買ってしまうワタクシの雑感です。

今日も読書の話ではなくてごめんなさい。来週は読書の感想にしたいと予定しています。


私、アメリカの大学を卒業し、帰国してから13年が経過しようとしています。近頃の私は英語にも留学にもアメリカにもすっかり興味を失くしているので、周囲の友人らも「えっ? そんな経歴の持ち主だった?」と驚く人々がいます。私自身も忘れているから仕方がない話です。


マイケル・ジャクソンの死をテレビで観ていたら、ふと哀しくなりました。私が10代の頃に憧れたアメリカが“本当に終わったかもしれない……”と感じてしまったからです。GM破綻、マイケル・ジャクソン逝去……。私が好きだった強いアメリカ、憧れのアメリカの姿がなかなか見えません。


英語の学習やアメリカ論を語ればきりがないし、留学についても私は語り出したら止まらないのですが、このブログはそもそも読書ブログなので、私がなぜ大切な人生の時間を使って読書し、その行為に価値を置くようになったのか自分の為に残しておきます。


私がいつも楽しみにしているブロガーの方から、「もっと自分のことを書きたまえ!」というような趣旨の激励(叱咤?)のプチメを受け取り、多少議論があったので、少しは自分のことを綴ってみようと心境の変化があったこともありますがべーっだ!


さて、私の趣味が読書に変化したのは、皮肉にもアメリカの大学へ進学したことがきっかけです。それまでは、読書嫌いでした。朝から晩まで英単語だけ暗記している英語オタクで、「朝まで生テレビ」なんかを観てはわかりもしない政治についてディベート方式で友人らと語り合うのが趣味でした。


今とは全然違います。今はいい意味でも悪い意味でも、やっと女性らしく普通になってきたと感じます。


当時、私は政治にしか興味がなく、舛添要一が大好きで、非常にプラクティカルな性格でした。女性誌は読んだことがない、メイクもしない、いつも同じジーンズ、洋服にも異性にもパーティーにも旅にも食にも興味がない、いわゆるオタクっぽい女の子でした。アメリカの田舎で、「ヤバイ、失敗は許されない、絶対に卒業しなきゃ」という強迫観念にかられ、一分一秒もムダには出来ないと、過呼吸気味で緊張感を保ちながら毎日readingやassignmentに追われ、睡眠時間は2~3時間の過酷な学生生活を送っていました。


一年が過ぎた頃、NYから日本人の男の子が私の大学へ編入してきました。前髪は坂本龍一みたく長く、全身黒ずくめで、いかにもNew Yorker風の彼。結構、かっこよかったです(笑)。日本人のくせに、珍しくアメリカ女性から「今晩、寮の私の部屋で映画を観ない?」なんて金曜日の夜にはお誘いがあるほど。私と彼は気が合わず、初対面で一触即発のような雰囲気に……。


彼「姫、言葉で犯しちゃうぞ!」


これが最初に彼が私に向かって吐いた言葉でした。「はじめまして」も「こんにちは」もなかったのです。


私「なに、この人~~!? いやいやいやいや、けっ、軽薄~! 大嫌い!!」


私はその一言が原因で、一切彼のことを受け付けなくなりました。


何ヶ月かして、彼が悩んでいると他の日本人から聞きました。私が彼を軽薄だと思っているのが苦しい、と彼が漏らしているとのこと。大学のカフェテリアで彼と私は向かい合い、ピザとダイエイットコークを頬張りながら、また喧嘩になってしまいました。


彼「僕が初対面であんなことを言ったのは、君のワガママな性格が一瞬で嫌というほどわかったからだよ」


私「でも、犯しちゃうぞ、はないでしょう? 失礼です。それに大体、あなた、アメリカの大学まで来て、英文学をやっている意味がわからない。本当にロマンチストなんですね!」


彼「政治、政治って姫は言うけど、姫がいくらテキストを読んで政治を勉強したって、社会がそんなに簡単に変わるのか!? それは言葉だけの世界だ。戦争の現場に行ったこともないくせに! 姫の方が、もっともっとロマンチストだ。僕は、リアリストだ。文学は、日常の喜怒哀楽、愛、友情、憎悪、嫉妬、生、死、病……、とにかくあらゆる感情を実用的に学ぶことができる素晴らしい学問だ。政治よりもむしろ、本の方が個人個人、そして社会に与える影響が大きいってことを姫はわかっていない!(怒)」


私はこの時、本当にハッとしたのです。

確かに、この人の主張することは一理あるかもしれない……。それからです、文学や小説をバカにしなくなり読書をしようかなと考えを改めたのは。

ちなみに、私に「姫」というあだ名がつけられたのは、先輩づらした上から目線の物言いが鼻に付くから、という理由だそうです。


その後、大学の寮に暮らしていた彼は、なぜか頻繁に私のアパートに勝手に遊びに来るようになりました。すぐに恋愛には落ちなかったのですが、彼はなぜか私が眠っていた2段ベッドの上の段でいつでも朝まで眠っていくようになってしまいました。今思えば、NYと違う田舎できっと寂しかったのでしょう。

彼は遊びに来ては、ご飯を食べて私の部屋で寝る。また、来る、話す、食べる、寝る。また、来る……。それでも、半年以上は付き合わなかったのですが、ある夜いつものように2段ベッドの上の段で寝ていた彼に対し、たぶん私の想いが募ってしまい、耐えられなくって「好き」と言ってしまった記憶があります。あ~あ、私が罠にハマってしまいました?


それから、私は彼がお薦めする文学をたくさん読み始めるようになりました。村上龍、村上春樹、高橋源一郎はもちろん、柄谷行人なんかは難解だったので私が嫌がると、例えば山の中でキャンプをしていても、いつでも本を持ち歩いている彼は柄谷氏の優れた文章を朗読してくれる……、というのがデートの常でした。


彼は付き合っている最中に、いつも私に詩を贈ってくれました。

そして、夏休みにそれぞれの事情があって日本とNYなど遠距離になる期間は、3日おきぐらいにエアメールで手紙を送ってくれました。今振り返ると、携帯もインターネットもメールも普及していない時代は大変でしたよね。


私のために創作して贈ってくれた詩がありますので、ここに記します。ちょっと私への批判が入っています(笑)。



「言葉と世界」


君は毎日、国際(政治)

関係論を勉強して「世界」

という単語を一日何万回も使う

君がWorldと発音するときアメリカ人には

Wordとしか聞こえない 舌が

どうしても歯の下にくっつかないから

そして僕にも(文学をやっているから)しきり

「ロマンティスト」と蔑む君が今日

世界をもしも語ったとしてもそれは

本当に言葉の問題でしかないのに

言葉の問題なんてないように扱ってる

(君の呼ぶロマンティストの)僕の言う

「言葉」とは魔女の予言

によって破滅した

マクベス 言葉と

闘った悲劇について言っているんだ



結局、彼とは「結婚しよう。大学を卒業したらNYに引っ越して、そこで働きながら一緒に頑張ろう」と約束をしていたのに、私の母親が猛反対して最後は別れてしまいました。プロフィールにある「お前なんか不幸になれ×4回、貧乏になれ×4回」はこの彼から私へ浴びせられた恨み節です。


別れてから1ヵ月後、未練がましかった私が彼に電話をしたら「俺はどん底だったんだぞ。お前なんかより100倍可愛い子と結婚するんだ!」と言い残し、半年後に出逢ったばかりの女性と結婚してしまいました。その時は本当に私はショックでした。「彼女が彼の何を知っているの?」と……。


風の噂で、彼が今は脱サラをし、会社を経営していると知りました。彼のブログや会社のHPから、今は活躍していることがわかり、今年は念願の書籍も出版したらしいです。きっと奥様が尽くすタイプのあげまんで、いい女性だったのでしょう。これからもガンガン頑張って欲しいです。


とはいえ、今では彼のおかげで読書の素晴らしさを教えてもらい、本当に感謝しています。恋愛は時に悪い面もありますが、自分にはなかった世界を見せてくれる素敵なもの。彼には心からありがとうございますと言いたいです。愉快なことに、それで私は読書好きの今の主人と出逢って結婚したという不思議な流れがあります。


そして、また今夜もマイケル・ジャクソンをテレビで観ると、どうしても自分のアメリカ時代を思い出してしまい、眠っていた記憶が一気にダッ~と溢れ出てきそうな予感がします。


次にアメリカネタの記事をUPする際には、警察に逮捕されたエピソードでも書きます。これは、本当に冗談でなく泣けてきて、すごかったですから叫び