
手入れがされていない荒れた山や森は、立枯れ木や掛かり木が多く立ち入ることさえ危険な場所であることを前回に書きました。
実際に自分の山でも、こうした枯損木が多く、まずは安全に立ち入ることのできる森づくりを目指しました。
林業はただでさえ事故率が多く、労災保険の料率も隧道工事やダム建設などと並び、かなり高い部類に入っています。
それだけ危険作業が多いということです。
重大事故の多くが、この倒れかかって他の木にもたれかかっている「掛かり木」の処理中に起こっています。
自分は山の手入れに慣れている訳もないのに、いきなりはじめの課題が自然に倒れた掛かり木の処理であったわけです。
少しネットなどで調べてみると、絶対にしてはならないNGな掛かり木処理方法が何種類か挙げられていました。
してはならない方法を避け、なるべく安全な方法をどのように用いるかを家に帰ってからじっくりと調べ、具体的な方法を考える訳です。
風呂に入っているとき、歯を磨いているとき、車を運転しているとき・・・
「あの掛かり木をどうやって安全に倒してやろうか・・・」と一人で考えるわけです。
ロープを巻き付けるように掛け、動滑車の原理で倍力にし、掛かり木を回転させつつ外すとか、根本をテコを使って斜面下方向に少しずつずらしてやるとか・・・
それほど効率を重視しているわけではないので、落ち着いて考える時間があります。
はじめのうちは、この悩ましい掛かり木処理のための思考が、いつの間にか楽しみに変わっていくのが不思議です。
使えるのは、自分の頭と人力だけです。
1週間、自宅で考えた安全な処理方法のアイデアを、いよいよ山に行って実際に試してみるときが来ます。
どのように掛かっている部分が外れ、どのあたりに木が倒れるか?
その時、自分はどの位置に立っていることが最も安全か?
近くに教えてくれる人が居るわけではないので、色々な角度から木を眺め、じっくりと考えます。
実際に倒す際には、全身の力を込めてロープを引っ張ることで滝のような汗が出ます。いや、冷や汗が大半かも。
無事に自分の思惑どおりに処理できたときには、達成感と安堵感に包まれます。
それでも、やっとの思いで一本を処理すると、またその向こうに他の掛かり木が何本も見えてきたりします。
しかも、次の掛かり木は頭頂部がツルに巻き付かれて吊り下げられたように傾いているとか、他の木の二股部分にガッチリ掛かっているとか・・・
掛かり木の他に、風倒木(風で根本から倒れた木)や、欠頂木(風で途中から折られて太い幹が安定して立っている木)、ボロボロに朽ち果てている立枯れ木など、慎重な処理が要するうえに難易度が高く、かつ危険な木がとても多くあったわけです。
その処理方法も百本百通りで、これといった万能な方法はなく、それぞれの異なる状況に合わせた処理方法を考え、安全第一で処理していきます。
こうして危険で厄介な仕事だったはずの山の手入れが、いつの間にか楽しみに変わっていくのでした。