地下鉄の乗り継ぎ駅での事です。
ゆっくりゆっくり歩いている私の脇を、明らかに私より年上の女性が
小型の黒いキャリーバックを引いて、颯爽と追い越して行きました。
ウェストを絞ったグレーのスーツをピシッと着こなして、
背筋を伸ばし、ハイヒールの足音を響かせながら歩いて行く
その姿を、私は半ば羨ましく見ていました。
ところが地下鉄にはたいてい階段があります。
しかも下りのエスカレーターは少い。
先を行く彼女がその階段にさしかかりました。
一旦立ち止まって、バックの引き手を収めるとサッと右手で
キャリーバックを持ち上げ、勢いよく降り始めたのです。
しかし階段は踊場を設けながら幾つも続いています。
だんだん彼女の身体が左側に傾き、スピードが落ちてきました。
「重そうなバックに、ハイヒール。ちょっと休んだら?」と心の中で
つぶやいたその時です。
40代サラリーマン風の男性が近づいて、一言声をかけた後、
スッとそのバックを持ってやりました。
ちらりと見えた女性の横顔が、本当に嬉しそうだったこと。
近頃は、こんなさりげないエスコートをする男性や若者が
増えた気がします。喜ばしい限りですね。