
[1.上告審の判断]
▼ 以下の理由から原審の判断は是認することができない。
▼ 本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したと認められる場合に違法となるものというべきである。
▼ Xは長時間にわたり相当量の飲酒をした直後、帰宅するために本件自動車を運転し、2回の事故を起こしていることからも、上記の運転は重大な危険を伴うものであったといえる。
▼ そして、Xは本件自動車の運転を開始した直後に第1事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置を講じずに運転を続け、さらに第2事故も起こしながら、そのまま運転して帰宅しており、本件非違行為の態様は悪質であって、物的損害が生ずるにとどまったことを考慮しても、非違の程度は重いといわざるを得ない。
▼ また、Xは本件非違行為の翌朝、臨場した警察官に対し、当初、第1事故の発生日時について当日朝と虚偽の説明をしており、このような言動も不誠実なものというべきである。
▼ さらに、Xは管理職である課長の職にあり、本件非違行為が職務上行われたものではないとしても、O市の公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに同市の公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることは明らかである。
▼ これらの事情に照らせば、本件各事故につき被害弁償が行われていることや、Xが27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、O市の施策に貢献してきたこと等を斟酌しても、本件不支給処分に係る市長の判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものということはできない。
▼ 以上によれば、本件不支給処分が裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
▼ したがって、原判決中O市敗訴部分は破棄を免れない。上記部分に関するXの請求は理由がないから、同部分につき原審判決を取り消し、同請求を棄却すべきである。
[2.反対意見]
▼ 上記判決は裁判官全員一致の意見によるものであるが、裁判官岡正晶より、概要以下のとおり反対意見があった。
▼ 本件規定に係る一般の退職手当は勤続報償的な性格を中心としつつ、給与の後払的な性格や生活保障的な性格も有するものと解される。
▼ そして、本件規定は個々の事案ごとに、退職者の功績の度合いや非違行為の内容および程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消するに足りる事情があったと評価することができる場合に、一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を行うことができる旨を規定したものと解される。
▼ 本件では、Xの過去の実績ないし功績の度合いは給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえると相応のものであって重視されるべきものと考えられるので、これを完全に抹消するに足りる事情はあるか否かの検討は丁寧に行わなければならない。
▼ この観点から、本件非違行為の内容および程度等をみると、Xの非違行為は職務中の行為であるとか、職務に関連または関係した行為ではない。また、非違行為の結果も幸いにして静止物との軽微な物損事故にとどまっている。さらに、O市の公務の遂行に及ぼした支障が重大であったとまではうかがわれず、同市の公務に対する住民の信頼ないし信用を具体的かつ現実的に害したとまでもうかがわれない。
▼ これらの事情に照らすと、本件非違行為をもって、Xの過去の実績ないし功績を完全に抹消するに足りる事情があったとまで評価することは酷に過ぎると考えられる。
▼ したがって、一般の退職手当が相応に減額されることはやむを得ないものとして、その合理性を認めることができるとした原審の説示は是認することができる。
▼ 以上の諸事情を総合的に勘案すれば、本件不支給処分は処分の選択が重きに失するものとして、社会観念上著しく妥当を欠き、本件規定が退職手当管理機関に認めた裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものとして違法であるとした原審の判断に違法があるとは考え難い。
1)原判決中、O市敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。
2)前項の部分に関するXの請求を棄却する。
3)訴訟の総費用はXの負担とする。