「じゃあ手紙かけよ。俺がそいつらのところに行って届けてきてやるよ。」
無意味な日々を淡々と過ごすよりそっちのほうがかえって気が楽になる。太郎はそう思い、自分でも思ってもいなかった提案をした。
「そんな、、書けねえよ。いまさら俺にそんな資格なんてねえよ。」
圭介は言った。
「じゃあとりあえず様子を見てきてやるよ。お前だって気になってんだろ。しばらく会ってないんだからな。」
太郎もここで引き下がるわけにはいかない。自分にとってしばらくの間まともな生活を送れるかもしれない唯一の光が見えたのだ。
圭介はまだ何かを迷うようだったが、小さく頷いた。
「でも、みんなばらばらになってたらどうすんだ?ガキの頃の夢なんだろ?それぞれ違う人生歩んでるだろうし、なかなかうまくはいかねえと思うけど」
言ってから太郎はしまった、と余計なことを言ったと後悔したが、普通皆小さい頃の夢なんて夢で終わってしまうだろうと思ってしまう。
小学生の頃の夢を叶える人間など実際にはごくわずかしかいない。
圭介はひとしきり何か考えているようだったが、何かを思い出したかのようにポケットをまさぐった。
「もし、みんな忘れてるようだったら、、これを渡してくれないか」
圭介の手から渡されたものは一本のカセットテープだった。よくこんなもの持ち歩けるものだ、と太郎は思いながらも、そのテープを受け取った。
当然のことながら囚人は常に厳しい監視の目が光っている。圭介が普通にポケットからテープを出したのは太郎にも意外であったが、模範生として監視の目が緩んでいる圭介にとっては簡単なことなのかもしれない。
「これに何が入ってるんだ?」
と太郎は言った。
「歌なんだ。いつも俺が歌ってるだろ。あの歌だ。小さいころ、みんなで歌った歌なんだけどさ。ネルソンでみんな歌ったんだ。もし、、もしだぞ。みんなあの頃の夢を忘れてるようだったら、このテープを渡してくれないか」
太郎は救われる思いで圭介の言葉を聞いていた。正直言って、圭介の友達を探すとは言ったものの、会ったところで初対面の人間にどう話そうかと迷っていたのだ。これがあればきっかけとしては最高だ。太郎は内心ほっとしながら圭介から渡されたテープを握り締めた。
「まかせとけよ。お前の自慢の友達ってのにも会ってみたいしな」
太郎は出所後にやらなければいけないことが出来たことと、それをすることにより収容所で出来た唯一の友達にこれからも少なからず繋がりができたことにほっとしていた。
しばらく忘れていた感情。誰かのために何かをしたい、してあげたい。
太郎は今、そんな衝動にかわれていた。