2000年 バンクーバー
出所まで残すところあと1日となったころ、ひょんとした機会から圭介と会った。この圭介とも約1年半の付き合いになるが、出所してからはしばらく会えない。もっとも出所してすぐに会うということは太郎が再犯を犯すということであり、それは太郎ももちろん望んでいない。ただ、お互いがなんとなく存在を認め合っていただけに、日々近づいてくる別れの音に耳を傾けることができないでいた。
「早いもんだな。あれから1年以上たってる」
と圭介はぼんやりと宙を見つめながら言った。
「ほんとだよな。あっという間に出所だよ」
「お前、最初はほんとにどうしようもない奴だったよな。とにかく突っかかってきてさ。友達って言葉にやけに反応してな。あん時の言葉、でも結構きたよ」
と笑いながら圭介が言った。
「でも、そりゃお互い様っしょ。だっていきなり俺の前来て会話に割り込んだりしてさ。ありゃあやばいっしょ」
「そういやぁそんなこともあったな。懐かしいなあ」。
どこか懐かしげに言う圭介の横顔は、いつもにない寂しさが見える。
別れの直前とあって、お互い微妙な空気が流れている。
しばらくの沈黙の後、耐え切れなくなったかのように圭介が口を開く。
「けどお前、明日出所だろ。早いもんだよなあ」
「まあ、お前には感謝してるよ、ほんと。世話になったよ」
太郎はさらっと言い流した。本当は心から感謝しているという気持ちを表したいのだが、太郎は恥ずかしくて言えない。
「何よ感謝って。お前らしくもない。あ、そうだ。出所したらお前どうするの?」
ぎこちない空気を出来るだけ円滑にしようと、圭介が話題を変えた。
「わかんねえよ。別に俺を待ってる奴なんていねえしな。な~にしよっかな~。なんか楽しいことでもありゃいいけどよ」
太郎は圭介から不意に聞かれた質問に、正直に言うしかなかった。太郎には出所したところで明るい未来などありはしないのだ。太郎が仲間と呼べる人間は裏切られたあの3人だけ。仲間と思っていたやつらに裏切られ、この塀の中で暮らすようになった。
そんな太郎に出所後の生活が希望に満ちているはずがない。当然出所したところで待っている人などいない。
「お前は出所したらどうすんの?」
頭の中に漠然と浮かぶ、目の前の暗い未来を取り払うように太郎は圭介に聞いた。
「俺、、、、やっぱネルソン帰りたいな。みんなで誓った夢があるしな、、、、、。でも、、麻薬の密輸なんてことしちまったからな、、みんなに会わす顔ないっしょ」
と圭介は明るく言ったが、そこに笑みはなかった。
「みんな何やってんだろうな、、。みんなで誓った夢、覚えてんのかな。」
らしくねえな、、太郎はいつもはどっしりと構えている圭介の弱気な態度に苛立ちを覚える。その夢が圭介にとってどれだけ重要なのかは知らないが、少なくとも1年前に自分に立ち向かってきたあの圭介の姿とは違い、今の圭介はその何倍も小さく見えた。
