第四話 ① | 小説・混雨 【まじりあめ】

小説・混雨 【まじりあめ】

学生時代に制作した映画の小説。カナダ・バンクーバーを舞台にしたストーリー。

2000年 春 バンクーバー

互いに打ち解けるまで大して時間はかからなかった。

太郎の邪険な態度より、圭介の懐の広さが勝ったというところだろう。すべてこそ話しはしなかったが、太郎は収容所に入った理由、仲間に裏切られたこと、少し尾ひれをつけながらも自分が犯してきた過ちについて圭介に少しずつ語り始めた。仲間というものに必要以上の猜疑心を持っている太郎だったが、圭介に対して徐々に心を許している自分に気づき、複雑な心境になっていた。


こいつだけは別なのかもしれない。


最近はそう思うようにもなっている。今まで太郎が思う仲間とは、同じ目的のために戦う同志、いわば戦友のようなやつらのことを言った。仲間が集まってくるのは自分の力に対して畏怖の念を抱いているからだ、と思っていた。


今でもそう思うときはある。人が仲間として群がるのはちんけな友情や愛情のためではなく、損得感情の上に成り立っているのだ、、と。


圭介を見ていると不思議な奴だ、と思う。このようなタイプの人間に太郎は今まで出会ったことがなかった。圭介は身体つきこそいいが、他人に対して自分の力を誇示するような人間ではない。相手を威圧するような態度も決してとらない。
そこにいるだけで、人をひきつけてしまうような不思議な魅力を持った人間だった。収容所に圭介を慕っている人間は多い。自分の心境の変化に戸惑いながらも、太郎は少しずつ圭介のおかげで収容所の厳しい生活も居心地がよくなった。



茶子は自分の夢が着々と現実に向かって進んでいることが単純に嬉しかった。資金繰りもうまく運び、今年の暮れには念願のカフェをオープンできそうだ。あとは細かな仕入や内装などをこなしていくだけである。
小さい頃からの夢。みんなで誓った夢。小学生の誓いなんて、と自分で思いながらも、その通りの人生を歩んできた自分を偉いと思う。


小さな教室。いつものメンバー。雪、茶子、圭介、逸平、星子、真己、伊佑。みんないた。みんなで誓いあった小さいけれど大きな夢。

「いつかみんなネルソンに帰ってきて、この街を大きくするんだ。」

もう10年も前の話だ。この10年の間に自分以外のみんなはこのネルソンから去っていった。

茶子の大好きだった姉、雪も例外ではなかった。2歳年上の姉とは親友のように育った。しっかり者の雪はみんなからも好かれる自慢の姉だった。昔から頭の良かった雪は高校卒業と同時に知人の紹介で心理カウンセリングの勉強をするため、バンクーバーへ行っていた。

雪が18歳、茶子が16歳の頃のことである。


この頃には既に圭介を除く友人4人はそれぞれバンクーバーへ越していた。星子のように一人夢を追いかけ旅立つ者、家族総出で田舎街に別れを告げるもの。それぞれ境遇は違ったが、一重に田舎暮らしに耐えられなかったのかもしれない。
茶子は雪が旅立つ前日、別れを惜しむように一日中姉に付き添っていた。

「茶子、永遠の別れじゃないの。自分の夢をかなえるために行くの。あなたももう子供じゃないんだからメソメソしないの」

優しい声色で諭した雪の言葉が、まるで昨日のことのように思い出される。

そう、あの頃は心ではわかっていながらも、姉の転居が受け入れられなかった。雪が前日に一緒に居たかったのは私ではなく、圭介だったということはわかっていたものの、まだ16歳では大人のように振舞うことができなかった。

姉がまだこの世に存在しているのであれば、謝りたいことは山ほどある。旅立つ前日に駄々をこねたこと、圭介からの手紙を盗み読んだこと、勝手に服を借りたこと、などなど。どれだけ謝っても、どれだけお姉ちゃんと呼び続けても、姉はもう帰ってこない。