第二話 ② | 小説・混雨 【まじりあめ】

小説・混雨 【まじりあめ】

学生時代に制作した映画の小説。カナダ・バンクーバーを舞台にしたストーリー。

カモメが悠々と飛ぶ平和なノースバンクーバー一帯に、けたたましいとサイレンの音が鳴り響いてきた。


「おい、逃げるぞ」


誰か通行人が通報したのだろう。Esplanede Streetを車で走れば、大抵のものがそこで起こった儀式がなんなのかを把握できるような場所だ。

巌の一言で皆ボルボに飛び乗り、足早にその場を立ち去った。


今日のRCMPはいつもよりしつこかった。逃げても逃げてもサイレンが追いかけてくる。近頃多発しているギャングを一斉に告発したい警察は、今回の事件をきっかけに壊滅させたいのであろう。

あるいは先ほどの少年は死んだのかもしれない。巌は見知らぬアパートにボルボを滑り込ませ、皆固まらないように逃げ始める。

集合場所はいつもの隠れ家だ。 30分ほど逃げ回っただろうか。辺りはまた平穏なノースバンクーバーに戻りつつある。サイレンの音も聞こえない。聞こえてくるのはカモメの鳴き声だけだ。


太郎はRYUに携帯で連絡をとり、いつもの隠れ家へと向かう。24hrsのコンビニの裏を抜け、THANKSの横道を駆け上る。Lonsdaleから4th Streetを西に曲がったところに太郎達の隠れ家はあった。



この辺りは家族向けのアパートやマンションが立ち並び、見るからに平和な住宅街だ。

ダウンタウンへと海路で渡るSea Bus Stationまで徒歩で10分ほどの距離にあるため、ノースバンクーバーでも人気のあるエリアだ。まさかこんなところに悪党が住み着いているとは警察も思わない。絶好の隠れ場所なのだ。

太郎は1階にある待ち合わせの駐車場にたどり着いた。巌、RYU、TAKASHIはそれぞれ警察を巻いたようだ。ノースバンクーバーを知り尽くしている彼らにとっては警察を巻くぐらい対したことではない。これから待ち受けている億単位の取引に、皆心躍らせているようだった。

その時、後ろから激しい怒声が響いた。


「待て!!!」


完全に巻いたと思っていたRCMPが後ろから迫ってくる。一瞬にして駐車場に緊張が走る。警察との距離は約10メートル。アパートへの入り口に駆け込めばなんとか逃げ切れる。誰もがそう思った。

巌、RYU、TAKASHI、太郎の順に入り口へ全力で走る。入り口までは10メートルほど。背後にとてつもない緊張感と圧迫感を感じる。 その時だった。


「チャリーン」


前方を走っていたTAKASHIが何かを落とした。鍵だ!

太郎はあせった。ここで拾ってしまえば捕まるかもしれない。しかし、この鍵一つで自分の今後が大きく変わる。背後から今にも手が届きそうな勢いで迫ってくる。駄目だ!思うよりも先に体が反応した。


急いで鍵を拾い上げる。まだいける! 掴んだ瞬間、信じられない出来事が目の前で起こっていた。


「ガチャン」


アパートへと続く扉が閉められたのだ。何が起こったのか理解できなかった。あわててドアのノブを回すが、既に中から鍵が掛けられている。

はめられた!


「おいっ!!空けろ!!おいっ!!早くしろ!!!!」


一瞬のうちに太郎は背後から来た警察に腕をねじ上げられ、今まで経験したことのない冷たく硬い手錠を両手につけられた。