ドンへ side
それから彼を。何度か見かけた。カウンターに陣取るヨジャたちと違って。いつも同じ、窓際のテーブル席に座って。たまにこっちを伺って。目が合うとぽっと頬を染める。微笑むと目を逸らす。こんな初々しい反応、ヨジャでもしない
なかなか、転がしがいがありそうだ。さぁ...どうしようか...あからさまに声をかけてもなぁ...目立つし、逃げられたらかっこわるいし...
でも。その機会は。意外と早く訪れた
『あ!何すんだよ!』
がちゃんという。派手な音とともに。見ると。数人の若者に囲まれている、青ざめた彼が見えた
大きな声に。何事かとリョウクが顔を出したから。店内用の防犯カメラを確認するように、指示した
『どうかされましたか』
俺が声をかけると。ちらっと目線をよこして
『こいつが、俺にそれをかけたんだよ』
そ、そ、そんなことは...うるせーな!じゃぁなんでこんなんなってんだよ!
テーブルの上には。彼がオーダーした飲み物が、こぼれていて。確かにそいつのシャツには、シミっぽいものがあった。事情はわかりました。しかし...
『他のお客様の迷惑になりますので。もう少し声を控えめにお願いできませんでしょうか』
はぁ?何だよ、俺は客だぞ!
『はぃ。もちろん。ここにいらっしゃる方は。全員、お客様ですので...』
そいつが。いかにも気に入らないというように。片眉をあげた。戻ってきたリョウクが、首を横に振った。ってことは...
『店内にはカメラもありますから。別室で確認していただいても、よろしいでしょうか』
何だ!てめぇ!生意気だな!そいつが。ぐっと、俺のシャツの襟元を掴んできた。意外と早く手を出してきたな...その手を捻りあげると。大袈裟に悲鳴をあげる。くずされたシャツをがばっと脱いで、放りなげると。インナー一枚で腕組みをした。背後で。カウンターにいるヨジャたちの。声なき声が聞こえる
『さぁ。どうしますか』
別に、腕っぷしに自信があるわけじゃない。二の腕に自信があるだけだ
『う...』
行くぞ!引っ込みがつかなくなったのか。そいつらはばたばたと出ていった
青ざめた彼が。ほっと息を吐いた
『お怪我はありませんか』
シャツを拾いながら声をかけると、俺を見て。視線を泳がせて。真っ赤になった
《つづく》
※本日のラインナップ