ドンへ side


あれ。あの子、俺のこと見てる?気づかなかったな...死角だからか...オトコの子だからか...

この店のバリスタになって。随分経つ。コーヒー好きが高じて。カフェのアルバイトから資格を取って。いろんな店で働いた。渡り歩いてるのは、よく引き抜きの話しが来るからだ。俺の腕と。顔を当てにして

実際、カウンターには。俺の一挙手一投足を追いかける、ヨジャ組が何人か。たまにサービスで、にっこりしてあげると。歓声とまでいかなくても。肩をたたきあって。こっちも客商売だから。あまり騒がれても困るしね。気が向けば、適度に遊んであげることもある。そん辺は不自由してない

『ヒョン。疾しい顔してる』

『やらしー顔?』

『や・ま・し・い!』

ぷくっとほっぺたをふくらませたリョウクは。この店のパティシエで。リョウクも元々。俺に惚れてて、この店にもぐりこんだらしぃ

《あまりにも外見と中身が違いすぎて。諦めついた》

ほんとにきっぱりと。うっかり恋愛なんて、しなくてよかった。そーゆーとこが。女子力ありそーに見えても、やっぱりナムジャなんだなって思う。恋愛なんて。疲れるばっかだろ

ちらっと。さっきの子に目をやる。染めてるわけでもなさそーな、少し茶色がかった髪。白い肌。大きなメガネ。ベンチコートにマフラー。まぁ...そこらによくいそーな学生だ

目があって。ぴょんとはねて。髪の毛が、逆立ったよーに見えた。あわててうつむいて。何を飲んでるのか。グラスにささったストローを、ちゅるっと吸った。ぽっと頬を染めて。ぱたぱたと。オトコにしては、白くてほそい手であおぐ。何だよ。随分、ウブじゃねーか...

ちょっとおもしろそうだな...にやっとしたのに気づいたのか。リョウクが、おもしろくなさそうにため息をついた


《つづく》

※本日のラインナップ