ドンへ side
ヒョクチェ?
そろそろねよーかとおもっていたら、泣き声がする。ふとんをめくると、ヒョクチェがちーさくまるまってしゃくりあげていた
『どした?こわい夢でもみた?』
ぱぱぁ…前髪をかきあげると目はつむってるけど、その目尻になみだがにじむ。鼻のあたまをあかくして。ヒョクチェ。一緒いるからね。ちーさな身体をだきこんでふとんにもぐりこむ
俺のパジャマをぎゅっとつかんで。顔をうずめて。息がアツい。背中をそっとなでて
ぱぱぁ…ん。だいじょぶだから
だんだん呼吸もおちついきて…このまま寝てくれるかな。そーおもったとき
ままぁ…ぽつっとこぼれた声
ん…ごめんね…俺で…
はじめて《パパ》とよばれた日。まわりが名前でよぶからずっとそーだったんだけど。幼稚園にかよいはじめて。しばらくして。園バスからおりてきたヒョクチェが《パパ、ただいま》
なんてことはなぃ。《ヒョクチェくんのパパ》そーよばれるよーになったから
そのよび方にも慣れたころ。こんどは《ママってなに?》ボクんちにはいないの?
こころがまえはしていたけど、意外にはやくおとずれた。ごまかすこともできた。でもヒョクチェのまっすぐなまなざしに逆らうことができなくて
ヒョクチェにどれだけ理解できるかはわからないけど
ママってゆーのはヒョクチェをこの世におくりだしてくれた、尊いひとで。いまはお空の星になって、ヒョクチェを見守ってくれてるんだ
ふーん。空を見あげて。まだ青い
わかったのかわからないのか。それからそのことばをくちにすることはなかった。でも…ふとしたときに破裂する。ちーさな地雷
それは俺のこころに棘をのこす。いつまでも。ぐじぐじと
ごめん…よばせてあげられなくて…
ごめん…俺がかわりで…ごめん…
でも…でも…
キミをだきしめてねむれるなんて
俺にとってはキセキなんだ
《(13)につづく》
※記念祭 ラインナップ