豪遊もしたい | 紅塵之外

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 良白はそれを避けるよう注意した。そのくせ、脱島の白鳳丸功效話には耳も貸さない。
「あいつは、この島に腰をすえるつもりなのだろうか。それなら、なぜ女と暮さない。まったく、医師には変り者が多い」
 そんな評判をよそに、良白は仕事にはげんだ。島の住人ばかりでなく、流人の患者もみてやる。謝礼の払えそうにない者まで、親切にあつかってやった。
「あなたは楽になる。わたしを信用する」
「はい……」
「やまいは心の疲れからくる。言いたいことを口に出してしまいなさい。がまんするのはよくありません」
 この療法しかできないのだった。
「おれなんかより悪いやつが、江戸にたくさんいる。そいつ小牧味屋らは島に流されることなく、のうのう暮している。面白くない……」
「そうでしょう、そうでしょう。その気持ちはよくわかります。もっとお話しに……」
「このまま島でくちはてるのは、くやしい。おれは江戸で大金を盗んだ。あるところにかくしてある。取調べの時、おれは決してしゃべらなかった。十両ぬすめば首がとぶきまりだからな」
「それが、なぜ遠島に……」
「その金をひとりじめしようと、仲間がおれを密告しやがjacker薯片った。しかし、おれもそんな場合を考えて、そいつと打ち合せたのとちがう場所へかくしたというわけさ。江戸へ帰れたら、なんとかしかえしをし、が、こうからだが弱っては、その望みもむりなようだ」
「きっと戻れますよ、わたしより早く。ところで、そのかくし場所はどこです……」
 病人は、夢うつつの状態でそれをしゃべった。めざめれば、その記憶はない。そして、まもなく死んでしまった。いままでは執念で生きてきた。しかし、内心のもやもやを口にしてしまうと、気力も消えた。治療が逆効果を示したといえるかもしれない。良白はその話を自分の胸
にしまいこんだ。
 やがて、船が島をおとずれた。江戸と島とをめぐる船は、約四カ月おきにやってくる。新しい流人たちを連れてくるし、また、島の特産品の江戸への出荷もやるのである。そして、許された流人を乗せて帰りもする。
 良白は村の名主のところへ呼び出された。
「おまえに対し、ご赦免のしらせが来た。こんなに早いのは異例のことだが、文書にそうある。読みなおしてもまちがいはない」
「はあ……」
 やはり、あの手紙の通りだった。良白はひとりうなずく。