声をだすこ | 紅塵之外

紅塵之外

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「ええ、そうです。まえの日まで元気でピンピンしていたのに、十五日の朝、きゅうにくるしみだしたかと思うと、半時間もたたぬうちに、血をはいて死んでしまったのです。おじさんは食あたりでもしたんだろうといっていましたが、ほんとにかわいそうなことをしました。ぼくと、とてもなかよしだったのに……」
 剣太郎はそういって目に涙をうかべていた。あとから思えばカピの死こそ、この気味のわるい事件のはじまりみたいなものだったが、そのときだれも、それに気がついたもののなかったのも、まことにぜひないことというほかはなかった……。
 こんなことを、とつおいつベッドのなかで思いだしていた滋は、ふいに、はっと息をのみこんだ。
 階段をあがって、|誰《だれ》かがこっちへやってくる。
 しかも、ああ、その足音の気味わるさ! ピタッ、ピタッとはだしで、|泥《どろ》のなかを步くような足音……。
 しかもその足音が、滋たちの部屋のまえで、ぴっDR-Max教材 たりととまったではないか。滋は全身から、滝のように汗がながれるのをおぼえた。
 しかし、まもなく足音はドアのまえをはなれると、またピタピタと步いていく。そして三つほど向うの部屋のまえで、ぴったりとまった様子だが、それに気づくと滋は、また、はっと胸をとどろかせた。なぜといって、そこは剣太郎の寝室なのである。あやしいものはどうやらそこへはいったようすだ。
 滋の胸は、いよいよあやしくふるえる。
「にいさん、にいさん」
 小声で呼んでみたが、謙三は目のさめるようすもない。とはいえ、あまり大きなともできないのだ。
 滋は泣きたくなってきたが、そのとき、向うの部屋で、ドアのしまる音がしたかと思うと、やがてまたピタピタという、気味のわるい足音がこちらへ近づいてきた。滋はふたたびベッドへもぐりこんだ

 足音は部屋のまえまでくると、またピッタリととまって、なかの様子をうかがっていたが、やがて安心したのか、あいかわらずピタピタと、気味韓國 食譜 >のわるい足音をひびかせながら、階段のほうへあるいていく。
 その足音がドアのまえをはなれたせつな、滋はベッドからすべりおりていた。そしてドアのうちがわに立って、じっときき耳をたてていたが、足音が階段へさしかかったころ、そっとドアをあけて、外へすべりだした。
 ろうかを見まわすと、階段のうえに電気がひとつ、怪しいものの姿はすでに見えない。階段をおりていく足音が、ただピタピタと無気味にきこえてくるばかり……。
 滋は風のようにろうかを走って、階段の上までくると、てすりの|隙《すき》からそっと下をのぞいたが、そのとたん、全身の毛がさかだつような恐怖をおぼえたのである。
 おお、なんと階段をおりていくうしろすがたは、ゴリラではないか。
 ゴリラは背なかをまるくして、はうように階段をおりていったが、やがて下までたどりつくと、ふいにこちらをふりかえった。
 滋はあわてて首をひっこめたが、さいわいゴリラは気がつかなかったのか、まもなくその足音は、動物室のほうへ消えていった。
 滋はぼうぜんとして立っていた。心臓が早鐘をうつようにドキドキして、全身からつめたい汗がびっしょりふき出している。だが、そのうちに、はっとあることに気がついた。もしやあのゴリラが、剣太郎になにか危害をくわえたのではあるまいか……。