老師のもとで過ごした、静かで確かな日々。
私は、自分の「言葉」と、あらためて向き合っていた。
誰かを癒すということは、
まず自分を癒したあとの副産物なのだということに、私は気づいた。
自分自身を受け入れることで魂を洗練させ、
その光が、自然と世界へと還元されていく――そんな術でもあった。
感情は、世界を揺るがす“聖なる粒子”。
喜びも、悲しみも、
そしてまだ昇華されていない恐れさえも。
それらを無理に抑え込むのではなく、
ただ、あるがままに受けとめる。
そのとき、感情は形を変え、
**“新たな光”**として放たれていくのだ。
再生の錬金術――
それは、言葉にならない沈黙と共に在る。
静かな技法。
私はようやく、その本質を、体の奥深くで理解しはじめていた。
胸の奥に潜んでいた言葉たちが、
今、確かな意志となり、
世界とゆるやかに響き合い始める。
リュミエルの森で、私は知った。
私の旅は、まだ始まったばかりだということを。
✳︎
「心の奥に潜む闇を照らし、
そこに、再び新たな光を吹き込む。
それが、真の『再生の錬金術』なのだ。」
老師の言葉が、
私を再び「守護の扉」へと導いていく。
老師は再び私を見つめ、静かに語りかけた。
「ここは、条件を満たした者だけが辿り着ける場所……。
『そなたが持っているその書、
それはただの紙切れのように見えるが――
持ち主を選ぶと伝えられている。
古の文字で記された、**『ルシフェリオンの書』**と呼ばれるものだ。
“ルシフェリオンの書”
その名の響きが、
まるで眠っていた扉を静かに揺らすように、
新たな世界の気配を告げていた。
イーリウスが翼を広げる。
凛とした空気が一帯を包み、風がざわめき始めた。
『風は消えた声を憶えている』
吟遊詩人……彼の言葉を、私は想い出していた。
((時が来た))
私は、そっと頷く。
“星の記憶”へと向かうときが、今、訪れたのだ。
その扉が、静かに、開かれてゆく。