=第43話「ありがとう」=
「グレちゃんが!グレちゃんが!」
Yuさんの叫び声を聞いて洗面所を飛び出しました。
そこには、彼を抱き抱えて、必死に名前を呼んでいるYuさんの姿がありました。
腕の中の彼は、小刻みに痙攣をしていました。
昼間のような激しい発作ではなく、
ピクっピクっと。
僕はそっと彼に近づき、頭を撫でてあげながら
「よく頑張ったね」
そう声をかけました。
そして、
彼の顔に頬を寄せて
「ありがとう。ありがとう。愛してるよ」
何度も語り続けました。
「グレちゃん。本当にありがとうね。大好きだったよ」
今日一日頑張った姿を見てきて、行かないでとは言えませんでした。
その日、3/23日はYuさんの誕生日でした。
誕生日の一日、できるだけそばにいようとしてくれたに違いありません。
彼に出会えたこと。
僕の猫嫌いを変えてくれたこと。
たくさんの出会いをくれたこと。
猫たちを一生懸命育ててくれたこと。
心から幸せな気持ちにさせてくれたこと。
そして、最後まで必死に生きる姿を見せてくれたこと。
その全てに「ありがとう」の気持ちでいっぱいでした。
だんだんと遠のく命を感じながら、ありったけの「愛してる」と「ありがとう」を伝えました。
そして、
「待っててね。僕もそのうち行くから。寂しくないからね」
と告げたあと、
彼は1度だけ
ぎゅーーーーーーー
と縮こまり
「ふっ」
と小さな息を吐いて
旅立ちました。
うわーーーーーーー。
堪えていた涙が溢れだしました。
彼を抱きしめました。
時間は23:50分。
Yuさんの誕生日が終わろうとする最後の最後まで、彼は頑張ってくれました。
誕生日に悲しませたくないなんて思ってたのかな。
最期くらいわがままでいいのに。
最期くらい手を焼かせてくれていいのに。
彼は、本当によく出来た猫のまま
この世を去りました。
第43話 完