=第38話「衝撃」=
3月を中旬を過ぎると、ぐれおじさんは、だんだんと自分で餌を食べられなくなり、ほぼ強制給餌の日々になってしまいました。
トイレにたどり着く前におもらしをしてしまったり、日に日に弱くなっているのは明らかでした。
でも、発作など急変はなく、いつもの窓辺で寝てたりと、日々を穏やかに過ごしていました。
それは3/22の朝のことでした。
ぐれおじさんの検診は翌日の予定だったのですが、その日は予定がなかったため、一日早く病院に連れて行くことにしました。ぐれおじさんの様子は昨日と変わらないのに、自分でもよく分かりませんが、ふと、早めに行こうかなと思い立ったのです。
まさか、あんな事態になるとは、この時点では思いもよらなかったのですが。
病院に着くと、主治医の先生はお休みでした。初めてぐれおじさんを診てもらう女医さんでしたが、まあ、血液検査だけだし、不安はありませんでした。
まずは体重測定。
「あら、前回よりも少し増えてますね。調子も良さそうだし」
女医さんは笑顔でそう言いました。
「良かったー!」
「じゃあ、血液検査するので、しばらくお待ちください」
ぐれおじさん、頑張ってるな。そう思いながら、待合室に向かいました。
10分くらい待ったでしょうか。診察室に呼ばれました。
すると、その女医さんは、さっきとは全く違う神妙な面持ちで口を開きました。
「大変危険な状態です」
「はい?」
思わず聞き返してしまいました。
「カリウムの数値が異常に高いんです。いつ心停止になってもおかしくありません」
わけが分かりませんでした。
今朝はとても落ち着いてて、ただ、気まぐれで連れてきただけなのに・・・。
お医者さんはこう続けました。
「まずはカリウムの数値を下げないと、今のままでは命が危ないです。しばらく預けて処置させて下さい」
「ぐれちゃん、大丈夫なのでしょうか」
「分かりません。できるだけのことはします」
突然、頭を殴られたようでした。
何も考えられず、ただお医者さんの言うことに従うしかありませんでした。
なんでこんなことに・・・。
全く理解できませんでした。
前の晩も何も変わりなかったのに・・・。
でも、ふと、ルナくんがしきりにぐれおじさんを気にしていたことを思い出しました。
ひょっとしたら、何か感じていたのかもしれません。
その後、帰宅しても、僕は何をして良いか分からず、とにかく、病院から急変の電話が来ないことだけを願っていました。
電話は鳴りませんでした。
他の猫たちも、いつもよりそわそわしているような気がしました。
そして、夕方、ぐれおじさんを迎えに病院に向かいました。
第38話 完