話を戻していきましょう。芸能界を目指す男性のA氏はアニマを出しながら売れずに現在に至り、そこで少し方向転換をしようと考えます。つまり、心理学的にはペルソナを使う戦術に切り替えようとします。さてこれも成功するのでしょうか?というストーリーを考えてみたいと思います。
ここで重要なことが、芸能界を目指すA氏とそれを受け入れようとする市場とでは求めるものが逆であることです。つまり、シーズとニーズは逆のものであることです。そして、男性と女性とでまたニーズは異なりますし、シーズの出し方も異なります。ここが難しいところです。A氏が女性的な部分を出してある程度変化し、女性化したことで見た目もきれいになったとします。そうすると男性のニーズは増えるでしょうけど、女性のニーズは減ります。これは当然のことで、同じ女性の一部分、つまり女性的な部分を熱狂的に好きになることはありません。なぜなら、同性であるからです。ではどうするか?なのですが、ユング心理学においては男女が一体化していることで表現します。錬金術師がこの状況を絵にして表現しているのを見てユングは結合が不可能であるとさえれる物質の結合は可能であるとの意味に捉え、これで完全体の完成形であるとみなすのであります(対立物の結合)。ちなみに、この状況を見て多くの人はユングがオカルトの方向へ行ってしまったと思っているようで、現在でもその論争に終わりを見ることはないのですが、私としてはユングはオカルトの方向へ行きつつ、心の問題を追及したと考えております。
ここまで論じてみたところで、我が身を売っていく芸能界においてA氏は売れないことに相当悩み、自分自身を変えていこうとするのですが、ニーズはシーズの逆となりますので、自我は混乱し、とにかく考えれば考えるほどわからなくなるのです。なれると簡単なのですが、ステージに上がる人間は美を追求するものだ!という芸能人の勝手な思い込みとは裏腹に、観客は汚い人を見たくなるものであります。男性の観客であればきれいなものを見たいと思うかもしれませんが、女性の観客は男性的なものを見たいものであります。ペルソナを使ってきれいにしたとしても、ステージに上がってきたのは男性ですから、アニマを使ったくらいでは男性の観客に圧倒的な感動を与えることは困難でしょう。さらに、女性の観客にとっても、きれいな男性が出てきたとしても「美」の部分で男性としての魅力が半減するでしょうし、困りましたね。そこで私はA氏にアドバイスします。売れてる芸能人の身なりをマネしてはどうでしょうか?既に結果が出ているわけですから、ある程度の結果を期待することができますよといったとしましょう。そこでA氏も同意し、やってみることにしました。これがペルソナを使った方法であります。
しかしながら、これでも売れることはありません。なぜなら、ペルソナは元型であります。元型ということは人類共通でありますからそのような格好をした人は既に星の数ほどいるからです。マネをしてはいけない理由はここにあります。しかし、このプロセスを経ずに個性化はありえませんから、まずは失敗することを覚悟のうえでこの道を進むしかありません。この次に影や老賢者の元型が作用してくるのですが、このペルソナを飛び越えていきなり老賢者元型を出すことは理論的には可能ですが、市場が受け入れないでしょう。つまり、「なんの経験もないのに、何を偉そうなことを!!」となるからです。世の中は難しいですね。ゆえに時間がかかっても順に階段を上がるしかなく、これがまた無駄な時間の使用を防ぐことにもなります。
今回はここまでとします。次回はより深くペルソナについて論じます。ご高覧、ありがとうございました。