前回はまず、芸能人として魅力ある人としてあるべき姿というものを具体的に示していく前に、まず、その魅力なるものは類型化できることを解説いたしました。これもまた面白いもので、類型化できるがゆえに差別化も可能となり、そこに個性が生まれてくるという、なんともユングの理論というのはしっかりとした理論構成であると言わざるをえません。もし人間に普遍的無意識しかない場合、投影によって「魅力」や「美」についての判定は行えるとして、あまりにもそれらの基準となるものが世界共通に過ぎ、ものすごく特定のものにしか人は反応しなくなり、そうなると芸能界などはまったく成り立たなくなりますし、その他の産業においても、デザインなどの点において、面白味はなくなるものと思われます。
では人はどのようにして「魅せて」、「魅せられる」のか。その仕組みを見ていこうと思います。その前に、まずは次の論文を最低限度復習しておいてください。
魅力、個性化、そして差別化における深層心理学的接近(心の構造 個人的無意識)
魅力、個性化、そして差別化における深層心理学的接近(心の構造 普遍的無意識 4)
まずは下記の図をご覧ください。
出所:河合隼雄 著 『無意識の構造』 中公新書 2002年 33頁の図に一部改良を加えました。
まず、人がある芸能人を見て「美しい」と感じるプロセスですが、まずは自我が芸能人を見ようとします。そして、意識がどの芸能人を見るかの判定を行います。次に、実際にある芸能人を見ます。そうすると今度は、一気に最下層のアニマ・アニムスが動き出し、そこからその無意識は個人的無意識を通り、再び意識化され、自我へ統合されます。この一連のプロセスは実際には1秒くらいですべてが完了します。驚くべき速さだと思いませんか?このように早く判定が行われるのは人間の神経系統がものすごく優れているからであるともいえますが、深層心理学的にはやはり、元型なるものが備わっているからであるということです。
基本的に人間というのは男性なら女性的なものに美的感覚を感じ、女性は男性的なものに美的感覚を感じます。これは究極的にはアニマとアニムスが作用しているからでありますが、女性のアイドルグループであれば、ベンチマークすべきは男性となりますので、女性のイメージを作り上げることにより、見ている男性は美的感覚を感じ、ファンになっていくと仮定することが可能です。逆に男性のアイドルグループは、ベンチマークすべきは女性の顧客層となりますから、男性のイメージを作り上げていくことが成功へのカギだと仮定することがいえます。最近は男性のアイドルグループの苦戦が続いており、なにより、女性のアイドルグループと比べてもどうしても下火になる男性アイドルグループですが、その原因の一つとして、男性を女性的に見せるところにあるのではなかろうかと思います。深層心理学の教えに従うのであれば、やはり男性は男性としてのペルソナを全面的に出した方が女性をメーンターゲットにすることに成功するのではないでしょうか。
このように、魅せるには魅せるための工夫が必要であり、魅せられるには見る側の普遍的無意識が大きく作用していることが分かります。ですから、魅せるための工夫というのは実のところ魅せられる側の普遍的無意識を刺激することが必要であり、そのための工夫が必要であるということです。
次回は美的感覚とブレイクとの関係を見ていき、その後に美の類型化などを行っていこうと思います。ご高覧、ありがとうございました。