大河ドラマとお香 「江〜姫たちの戦国~」 | リンデンバウムのブログ

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小さな香房からお香の魅力を伝えていきます。日本に生れたことに感謝!

今年の大河ドラマには殆どお香が登場しませんが、過去の大河ドラマでは度々登場しています。なかでも印象に残っているシーンを思い出して書いてみようと思います。2011年放送の「江~姫たちの戦国~(原作・脚本 田淵久美子)」から。

 

「「江〜姫たちの戦国~」で鈴木保奈美さん演じるお市の方が、落城の折3人の娘たちを城の外に逃がし別れを告げる際に、それぞれの好みの帯地で作られた小さな袋に各々が日頃聞香の時に好んでいたという香木を納め、お守りとして渡します。茶々には「浮島」、初には「空蝉」、江には「東大寺」という香木だったと記憶しています。

 

 

これが歴史的事実であったかどうかは分かりませんが、見事な演出であったと感嘆しましたし、今でも鮮明に思い出されるほどです。

そのせいか歴代のお市の方を演じられた女優さんの中でも鈴木保奈美さんのお市の方が1番好きです。

 

この回は東日本大震災の後3月13日放送予定でしたが20日に延期されました。タイトルは「わかれ」。不思議な偶然を感じます。日本中がたくさんのわかれの悲しみに覆われていた時でしたから、尚更心に響いたのかもしれません。

 

この3種の名香は3人の姫たちの未来を暗示しているように思われます。

宮沢りえさん演じる茶々が受け取った「浮島」という香木は百二十種名香の伽羅で、薫くとどこか汐や磯の香りがすることから「浮島」と名付けられた由来があるそうです。伽羅や沈香は熱帯の密林で採取されますので、磯の香りとはどこか神秘的ですね。この伽羅は茶々の父浅井長政が好んだ香木だったそうですが、数奇な運命の波に翻弄された茶々ー淀君の生涯が思い出されます。

 

水川あさみさん演じる初の「空蝉」も百二十種名香で、南北朝時代のバサラ大名佐々木道誉が銘をつけた羅国です。香木の虫払いの際の包み紙の入れ間違いから、源氏物語の「空蝉」の巻に依って名付けられたそうです。

源氏物語の空蝉は光源氏の求愛を拒んだ女性として知られています。自分の置かれた立場を理解し、感情に溺れない私欲の少ない女性のように私には思われます。初もそのような女性だったのではないでしょうか?

お市の方が「空蝉」を手渡しながら初にかけた最後の言葉は「姉妹をつなぐ絆となれ」というものでした。後年これは現実のこととなります。

 

最後に上野樹里さん演じる江に手渡された香木は「東大寺」別名「蘭奢待」です。六十一種名香の伽羅で、おそらく織田信長から譲られたものではないでしょうか。

「蘭奢待」は天下一の名香として広く知られていますが、江のその後の人生は苦労はありましたが華やかなものでした。二代将軍徳川秀忠の正室となり、三代将軍家光を産み、娘の和子(まさこ)は後水尾天皇の皇后であり明正天皇の母ともなって東福門院と呼ばれます。

 

長々と書いてきましたが、匂い袋や香袋と言われるものは古来より手渡す相手の幸福と厄除けを祈念して作られ、用いられてきました。もちろん自分のためにも作りました。香木を入れたのも香木が強い霊力を持ち、持つ人を守護すると信じられてきたからだと思います。

 

香木を買えない庶民でもお札や薬草、大切な人の形見の品などをいれた袋を作り、お守りとしてきました。この習慣は現在にも引き継がれています。

 

匂い袋や香袋を作る時、私は度々上記のドラマのシーンが心に浮かびますので、思い切って書いてみました。

 

香木の「浮島」、「空蝉」、「東大寺」については下記のご著書を参考にさせていただきました。

 

荻須昭大著「香の本」平成28年 雄山閣刊 p267,p356,p314 参照

 

私の拙い説明では申し訳ありませんので、詳しくお知りになりたい方はぜひこちらをお読み下さい。

 

お読みいただき有り難うございました。