チーさんキノコを食べるの巻。【後編】 | チー旅。〜世界一周する(仮)〜




【はじめに】

今日の記事はキノコを食べた時の状況のを

事細かに記録したものです。

気分を害してしまったら本当に申し訳ございません。









もう気分は最悪だった。

泥酔した時とよく似た気分だった。

その泥酔した気分の繋がりからか、

気付けば私の頭の中を、ある回想シーンがめぐった。

昔、バイト先に飲みに行って調子に乗って飲みすぎ泥酔して、

バイト仲間が車で家まで送り届けてくれたことを思い出していた。

「え…なんでこんなこと思い出しているんだろう…。」

まだふと我に返れる自分もちゃんといる。

他にも、昔のいろいろな記憶を

鮮明に思い出した気がするけど、よく覚えてない。





異常はだんだん体にも表れはじめた。

まず、自分の鼻を触りだした。

鼻が小さく可愛く感じたり、

ぐにゃぐにゃで面白く感じたり、

たまに大きく感じたりした。

なんだかおもしろくて

鼻を触りながら、私はくすくす笑った。




自分の右腕の筋肉が勝手に動きはじめた。

グッグッと勝手に力が入る。

まるで自分の腕とは思えなかった。

お腹の筋肉をグネグネ動かしたりもした。

波打つように。力をいっぱい入れた。

おでこを必要以上に触ったりなでたりもした。




人差し指をくわえだした。

舐めたり噛んだり吸ったり。

力を入れて噛むから指に痛みを感じるのにやめられなかった。

ものすごい力で吸ったり。

小指も、親指もくわえた。

舌に味を感じなかった。その時は、匂いも感じなかった。

指と舌が触れるやわらかい感触が

なんだかたまらなく心地よくて不思議だった。




今は一体何時なんだ。

もう、どのぐらい経ったんだろう。

iPadで時間を確認する。

時間はまだ日付が変わる前だった。

ゆっくり感じた。

iPadの中の写真のデータフォルダを見てみた。

データフォルダの中にLINEのスクリーンショットがあったり

文章をカメラで撮った写真があり、それが目に止まった。

それを声に出して読むのが楽しかった。

その声と読み方は、マネできないほど個性的だった。

録音しておけばよかった。後から聞いたら面白かったと思う。

自分の発する声やイントネーションがコントロールできない。

耳は意識が多分通常だったから

耳から入る自分の変な読み方が

めちゃくちゃおもしろくて爆笑しながら文字を読んだ。

その中で目に止まった

母とのLINEのやりとりのスクリーンショット。

「いいよ、いつでも帰っておいで。」

この母の言葉を読んだ時、私は急に泣き出した。

泣きながらでも声に出して読むことはやめなかった。




データフォルダの中にある写真を

古い順に辿ってみることにした。

この時も、小さな声ではあるがずっとしゃべってた。

「これ楽しいこれ楽しい」と繰り返し。

とても楽しかった。良い気分だった。

古い写真は、世界一周がちょうど始まった頃からだった。

一ヶ国目のフィリピンから順番に見ていく。

今まで見てきた絶景の写真に強い衝撃を受けた。

モンゴルの星空、インドのガンジス川、チベットの湖。

「ーーーーーっ!」声にならない声でとにかく驚いた。

地球にこんな所があるのかと。

どれも一度自分の目で見たことのある景色ばかりなのに

生まれて初めて見た以上のリアクションだった。




はっきりする意識は

「このままウユニの写真なんか見たらやばい」と思った。

案の定、ウユニ塩湖の写真はものすごい衝撃だった。

何度もズームしてその景色に驚いた。




写真を見ながら何度も繰り返したふたつの言葉があった。

「わかるわかるわかる」「汚い」だった。

写真を見た時に、記憶があって、

覚えていることに対しての「わかる」だったと思う。

これはあまり定かじゃないけど、多分そう。

もうひとつ、「汚い」






自分の顔を見た時だった。







自分の写真を見るととにかく「汚い」を連呼した。

はっきりする意識の中で私は驚いていた。

ちょっと言い過ぎじゃないか自分、と思うほど。

ここで確信した。

意識はふたつあると。

頭の深い所ではっきりしている意識と

コントロール不能のラリッた意識。

ラリッタ意識が声を出たり笑ったり泣いたりしている。



友達の写真が出て来たら名前を呼んだ。

誰が誰だか、ちゃんとわかってる。



次にLINEを見て見てみた。

インターネットは繋がっていないから、

今までの母や、友達とのやりとりをさかのぼって読んだ。

たまたま最初に読んだLINEが

友達に言われて悲しかった時のLINEだった。

もう感受性が鋭くなりまくっているから、

読みながら、ボタボタ涙を流し、口を抑えてショックを受けた。

ラリッた私が言った。「行かないで。」と。




そのあたりで、セルモンさんがやって来た。

泣きながら声を出して

文字を読んでいるから、聞こえてしまったんだ。

心配してきてくれた様子だった。

毛布にすっぽりくるまっているから彼の顔は見ていない。

何か話してる。

「おちついて」「トイレは大丈夫?」

ふと我に返る。

はっきりした方の意識がとっさに答える。

「大丈夫。」

自分の耳で聞いた感じではしっかり話せてる。

会話も出来てる。でも涙が止まらなかった。

その時は、怖いという気持ちだった。

「来ないで触らないで」と心の中で唱えた。

でもはっきりした意識の方で、

「ぶつぶつしゃべってうるさかったかな。ごめんなさい。」と思った。

毛布から顔を出すことはもちろん、

彼がそこにいる間は、ただじっと、動くことさえしたくなかった。

気配を消したかった。

彼がそこにいて私に声を掛けてから、

なぜか涙はどんどん溢れ出してしゃくりあげるように泣いた。

まるでそれは子どもみたいに、抑えることなく。

でも、あまり大きい声を出してしまうと

迷惑をかけてしまうというはっきりした意識もあったから

声は出来るだけ小さく抑えた。それでも、あれは号泣だった。

溢れる涙を我慢することが出来なかった。

私は何故か「お願いだから私を見ないで」と思った。

どのぐらいの間、泣いていたか分からない。

この時の気持ちは、とにかく悲しかった。

もう二度と感じたくないほど大きくて深い悲しみだった。

彼が一度部屋から出て、

乾燥した花のようなものを持ってきた。

それを私の体全身に這わせながら何か唱えていた。

それの効き目は分からない。

セルモンさんはしばらくしていなくなった。




私はこの時の気持ちをメモに書いて残そうと試みた。

その時のメモがこれ。





もうこれは軽くホラーだ。




はっきりした意識は

「さっきから来ないでとか触れないでとか

見ないでとか怖いとか一体なんなんだ…。」



もうわけが分からなかった。




セルモンさんはもうここにはいない。

そしてまた心置きなくLINEを読んだ。とにかく読んだ。

友達とのなんてことない会話を声に出して読むのが楽しい。

相変わらず変な読み方。おもしろい。

LINEの友達の写真を見て上から順番に名前を言い続けた。

友達の名前は、いつも呼んでる呼び名で言った。

声に出して名前を言うと、

その人のことを信じられないぐらい鮮明に思い出す。




どのタイミングかはあまり覚えていないけど

また誰か人が来る気配がした。

毛布の中でおびえて、固まる。急いで気配を消した。

耳に入ってきた声はお母さんの声だった。

その時、意識は「安心」にあった。

どうやら女性の声はそんなに怖くないらしい。

もう泣くことはなかったと思う。




ラリっている時は五感が研ぎ澄まされていて

食べ物がすごくおいしく感じるらしい。

それを試したくて持ってきていた水とチョコレートとリンゴ。

まず、リンゴを食べた。ウサギみたいに少ししかかじれない。

確かにおいしかったけど、特別ではなかった。

チョコレートも信じられないぐらい小さな一口。

口いっぱいに甘いのが広がった。

甘くておいしいけど、それ以上は食べられなかった。

水は、とても冷たかった。




キノコの効果は午前2時頃までは続いてた。

午前3時頃、ようやく効き目が切れてきたのが分かった。

気分は最悪だった。

気持ち悪くて吐きそう。お腹も痛い。体がだるい。

寝てしまいたいのになかなか眠くならない。

真っ暗な冷たいこの空間が怖かった。早く朝になって欲しかった。

一口かじったリンゴをカバンからまさぐりだしてまたかじった。

相変わらず一口が小さいけど、何回か繰り返してかじった。

かじったところから、良い匂いがした。

匂いをかいで「良い匂い…」とつぶやいた。

とても幸せな気分だった。

浅くしかかじれないリンゴは、変な形で食べかけのまま袋に戻した。

寝られないのが辛くて時間を何度も見た。

午前4時まで起きてた記憶はあったのに、気付いたら7時48分だった。

あ、寝たんだ…。

トタンで出来た壁にはいくつもの隙間があり

そこから明るい光が漏れている。

気持ち悪くもない。いつもと同じ朝。

「痛い……」

ただコンクリートにござと毛布を

敷いただけのところで寝たから少し体が痛い。




私がごそごそ起き始めるから、お母さんが気付いて起きてきた。




「おはよう。気分はどう?」

「良いです。」





お母さんはトタンの窓を開けて

冷たい朝の空気とまぶしい日の光を部屋に入れた。

私に「こっちにおいで」と言った。

言われるがまま立ち上がって窓の方に行き、外を見た。

もう、ふらつくことはなかった。

そこには澄み切った空気と朝日に輝く山があった。

信じられないぐらい美しく見えた。




それを見て、また泣いた。

今までの人生で

感じたことのないほど幸せな気分の朝だった。

ずっと夜の間から、この瞬間を待ってた。



「あたたかいコーヒーを入れるよ。」

そう言われたけど、私はもう進みたかった。

「ありがとう」と断って深くお辞儀をした。



クリスティナさんとセルモンさん。

朝起きて、ふたりのやさしい笑顔を見た時、

ああ、戻って来れたんだ…。と感じた。

本当にやさしいふたりだった。



このふたりの元で儀式を行うことが出来てよかった。

あと、ひとりだったことも今思えばとても良かったと思う。

もし誰かと一緒だったら、はっきりした意識が働いて

あんなにもぶっとんで泣いたりできなかったと思う。

イネスさんの儀式も受けてみようと思ったりもしていたけど

終わった時に私は思っていた。

「人生で2度もやることじゃないなあ…。」と。





だから私は今日、この村を出ることにした。






今日も読んでくれてありがとうございます。

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