前回の続きです。
「行きます!行きますよ!行けばいいんでしょ!!」
半ばやっけぱちな気持ちで手を挙げた後、そこから一瞬、間が開いたような感覚があり、次に目を開けてみると、私は一人で別のところにいました。
目の前には、望遠鏡を覗くときのような丸い穴があり、その穴をそっと覗いてみると、女の人の手が見えました。
その手には、昔の床屋さんがひげ剃りのときに使うようなI字型の剃刀が握られていました。
「あ、あの女の人のところに来たんだ」
雲で出来たトンネル越しに、他の子どもたちと一緒に見ていた女性の手にあった“小さな光るもの”は、剃刀でした。
それが、私が母のお腹の中から見た最初の光景であり、この世に生まれてからも忘れることができなかった記憶です。
私は幼少期、恐らく幼稚園に上がるか上がらないかくらいの頃に、母に、「お母さんのお腹の中からずっと見ててん」と言ったことがあったそうで(このときのことはこちらに書いています)、そのときに母が、「何が見えたん?」と聞いてみると、「なんか剃刀持ってた」と答えたそうです。
ずっと後になってから、私を身籠もったとき、母が妊娠を望んでいなかったこと、また、様々な要因から当時、心身のバランスを崩していて、そのために自暴自棄になっていたことを知りました。
その事実を知ってからは、母に対して罪悪感を抱いたことや自分自身の生まれてきた意味のようなものを考えたりもしましたが、今ではそのすべての体験が自分にとっては必要なものだったのだと思っています。
一時的に母との間に感情の凝りのようなものができたこともありましたが、今では口喧嘩したり軽口を言い合ったり、親子でいられる時間を楽しめるようにもなりました。