前回の続きです。前回の内容はこちら↓

 

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皇城を守った晩以降、師青玄の噂は瞬く間に街で広がります。昼間説書しているすぐ後ろの酒楼は師青玄に他の場所に行ってほしくなくて、是非建物の中で説書するように提案しますが、師青玄は自分は身なりが汚いことを理由に、遠回しに断ります。有名になった師青玄のおかげで客がたくさん入ってくるようになり、そのお礼としてか、その晩師青玄にたくさんのおかずを持って帰ってもらいました。

 

師青玄はいつもよりもたくさんのおかずを携えて「今晩こそは黒兄は姿を現すかな・・」なんて考えていましたが、廟に帰るや否や、大きな鍋を担いだ黒子がお粥を炊く準備をしているのが目に入ります。「黒兄!やっと帰ってきたんだね!ほら、お土産だよ!」声をかけましたが、黒子はそれを聞き流して準備を続けました。「きっとお腹空いてるでしょ。先にご飯食べて!お粥はこっちで炊いておくから。」そう言われて、黒子は師青玄の手から食べ物を受け取り、座って食べ始めました。

 

食べている黒子の横で師青玄は話しかけます。「ここ数日どうしていたの?皇城で大事件が起こったのは聞いた?二番目に仲の良い友達、謝憐にも会ったんだ。みんなで協力して、一瞬霊力も取り戻して、風師扇で悪い奴を撃退したんだ。」その隣で、年を取った短気なお爺ちゃんが口を開きました。「老風、またそんなほらを吹いてないで、早くお粥をくれよ!いつまで待たせるんだ。もう腹ペコで閻魔様に会いそうだよ。」それを聞いて黒子は眉間に皺を寄せて、何か言いたそうにしていましたが、師青玄は即座に「わかったわかった、李爺さん。もうできたから食べやすいように冷ましてから渡すね。」と答えました。

 

次は阿甘がそばにやってきて黒子が食べているものを見て声を荒げます。「老風、どうして黒子にだけお肉かすが入ってるんだよ。俺なんていつ最後に肉食べたかも覚えてないや。」「残り物をあれこれ持って帰っただけだから、お肉かすが入ってるなんて知らなかったよ。俺も食べてないし。」そう言うと風師はお粥をひとすくいして飲み干して夕食にし、そしてすぐに身体の不自由な人達にお粥を配って回りました。手についた脂を舐めながら話を聞いていた黒子は、師青玄が食べていないことを知った瞬間、表情が曇りました。「次は俺にも分けてくれよ。」黒子に懇願する阿甘を、黒子は「あげない」と一掃し、立ち上がりました。

 

それから数日後、この日の師青玄はいつにも増して機嫌良く酒楼を後にしました。仲良くなった料理人が「この前は危機の時にみんなを助けてくれて感謝してるよ。本当はお礼に沢山ご馳走したいけど、俺も一勤め人だから大したことはできなくて。肉まんを2つあげるからこれでも食べて。お腹が空いたら遠慮せずいつでもおいで。」と肉まんをくれたのです。

 

真っ白で、ふっくらまん丸とした肉まんを見ながら「・・一つは阿甘にあげよう、しばらく前からお肉が食べたいってねだってたし。もう一つは黒子にあげよう。いつも分けたご飯を全部平らげてるからきっと日中はお腹いっぱい食べれてないんだろうな。」そんなことを考えながら廟に向かってると、例の三人組がやってきました。

 

皇城を救った噂が街を駆け巡り例の三人組がまた絡みに来たのです。因縁をつけて師青玄の腕を叩き、手に持っていた肉まんも落ちてころころと転がって、蹴られて、汚れてしまいます。「ただの物乞いかと思ってたら、神官なんだって?しかも皇城を風師扇で救ったんだって?その風師扇よこせよ!」師青玄は殴られると思い思わず目を閉じました。次に開けた時には、三人組との間に黒子が立ちはだかっていました。黒子は三人組から繰り出される攻撃を全て掌で受け止め、三人同時に襲いかかっても動じずに、三人を撃退します。そして振り返ると、師青玄は大事そうに落ちた肉まんを拾い上げ、ついた汚れを丁寧に取り除いていました。

 

師青玄は、外は多少汚れても、幸い中の肉あんは無事で良かった..と思いました。「黒兄ありがとう。黒兄がいなかったら肉まんは無事じゃなかったと思う..」それを聞いて黒子は怪訝な顔をしながら聞き返します。「肉まんの心配?あの扇ではなくて?」「肉まん、美味しいじゃないか。扇でお腹を満たせるわけじゃないし。」

 

廟に帰った後、師青玄は肉まんを一つは阿甘に分け、もう一つを黒子にあげました。自分は粟粥をひとすくいしてお腹を満たそうとした時に、黒子は肉まんを半分に割り、半分を師青玄の目の前に差し出しました。「ありがとう。でも俺は良いんだ、もう食べたから。」そう言うや否や、師青玄のお腹から大きな音が鳴りました。「ははは・・ありがとう。」そう言って、肉まんを受け取り、下を向いて食べ始めました。横に座っていた阿甘も師青玄のお腹を音を聞いて、自分の肉まんを半分に割り、少し考えて、もう半分に割り、四分の一を師青玄に差し出しました。

 

師青玄は感激して受け取りお礼を言いました。阿甘は笑いながら「何言ってんだよ。元々肉まんを持って帰ってくれたのは老風じゃないか。遠慮して自分は食べないで、俺たちに分けたのにお礼を言うなんて、変じゃないか。」師青玄は何も答えませんでしたが、心の中はとても温かく、この日の食事はいつもにも増して美味しく感じました。

 

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こんなエピソードばかりだと省略してしまうのがもったいない気持ち、分かってもらえますか笑い泣きなるべく省略しないであらすじ紹介したいのですが、一つ一つが甘くて、なかなか先に進みません・・(全5話では到底無理そうです...)絶望風師、いつも自分のことは後回しで、周りの人に優しくて。ほんと、神官よりも神官らしい心の持ち主。こんな清い心の持ち主なんだし、元々神官になる素質がなかったとしても、是非また飛昇して神官になる機会をあげてほしい泣くうさぎ・・・なぜか黒子にだけ特別なもの、見ていて甘くて良きおねだりドキドキ

 

次回は黒水沈舟の視点のお話です!水師風師のことをあれだけ憎んでいたのに、どうしてこんな甘い展開になったのかが明かされます。苦いんだけどほんのり甘い...そんな話になると思います!