この作品の一番の魅力は、謝憐と花城の愛の物語だけでなく、他の登場人物の描写が丁寧に紡がれている点だと思います。今日は『天官賜福』の中の「西方武神」の現任’’権一真’’と、前任''引玉''についてまとめてみたいと思います。ネタバレを含むので、まだ未視聴の方はご注意ください。

 

ちなみに風師は、’’引玉殿下は謙虚で人当たりが良い’’と評価し、権一真については、''少し性格に難があり、人付き合いや世渡りがあまり得意でない''と評しています。

 

引玉は陰が薄く、顔つきも平凡で存在感もありません。権一真は口数が少なくて喧嘩っ早いところがあり、気に入らなければ信徒も殴ったり、君吾の連絡も無視したり・・。空気が読めなくて人と馴染めず昔から孤立しがちだったけれど、ただ師兄の引玉にはよく懐き、毎年贈られるプレゼントを楽しみにしていました。

 

人間だった時の二人の関係

引玉は人間だった時、伝統ある名門の出身で、飛昇することを生涯の目標とする努力家でした。一方、権一真は生まれつき才能があり、大した努力をしなくても簡単に何でもできてしまう、そんな人でした。元々二人は師兄弟で、小さい頃から権一真が何かしでかしても師兄である引玉が庇っていました。才能ある権一真に師匠も目をかけ、何でも良いものを与えられていました。

飛昇してからの二人の関係

師兄である引玉が飛昇して神官になった時に、権一真を中天庭に引っ張り上げました。''少し性格に難があり、人付き合い、世渡りがあまり得意でない''とされる権一真の性格をよく表したエピソードがあります。

 

引玉の神官としての立殿を祝う一世一代の晴れ舞台の日に、喧嘩をしでかして祝い事を台無しにする。

 

引玉にとって(そしてほとんどの神官にとって)飛昇することはとても大変な苦労をして成せることなわけで、そんな引玉に対して、「天界が嫌いならここにいなきゃいいじゃん」って簡単に言ってしまう。

 

引玉は「でも飛昇することなんてなかなかできないから、せっかく飛昇したなら頑張りたいと思う。」って返すんだけど「飛昇なんて大したことないじゃん。」って言ってしまう。で、実際半年後に飛昇する。(嫌われるのは、そういうところ笑い泣き

 

引玉はある時、自分の気持ちをこんな例えをしています。「長いこと片思いしている女の子が自分に対して冷たいのに、権一真にだけはぞっこんで、権一真はその女の子のことを平凡でどうでもよく思い、一目も見ようとしない。」そんな複雑な気持ちだと例えています。

 

その後権一真も自ら飛昇し、同じ西方の信者からの支持を得て徐々に勢力を伸ばし、最終的には引玉を凌駕してしまいます。そしてある日、神官が集まる宴会で、引玉権一真と間違われて、褒めちぎられます。もう引玉にとっては悪夢ですよね。

 

そうなると、引玉の部下は面白くないわけですよね。引っ張り上げた師弟が権力も名声も自分達の上にのし上がったわけですから。引玉の前であれこれ悪口を吹き込みます。でも引玉はその時はまだ「これが彼の実力なんだから、彼には才能があるんだから仕方がない」と思います。

転機

権一真関係的に気まずくなってからも「俺、もうすぐ誕生日なんだけど?」って自分から言いにきます。引玉としてはこうなった以上、あまり関わりたくないし、そっとしておいてほしいのに、もう空気読めなさすぎて困ります。

 

引玉としては師兄なので、何か贈らないと・・となるわけですよ。元々ちゃんとしたものを贈る予定だったのですが、部下が勝手に「呪い付きのプレゼント」を贈ってしまうんですよね。

 

このプレゼントというのは、一着の服で、’’着せた人の言いなりになってしまう’’効果があります。それを知って、最初引玉は何とか脱がせようとするのですが、脱がせる前に事件が起こります。

 

位の高い武神しか参加できない神武殿の会議に権一真が参加していることを知り、自分は位が足りず参加できないと言う圧倒的な「負け」を実感し、ついでに会議を終えた権一真が「今度の任務、引玉殿下も一緒に行けるよう言っといたよ。」って言うわけですよ。

 

位の高い武神しか参加できないのに、わざわざ名前を出されてお情けで連れて行かれるなんて武神として大恥なわけで、引玉からしたら「なんて余計なこと言ってくれたんだ!」ってなるわけですよね。

 

でも、権一真は「どうして怒ってるの?なんかダメなことした?」って聞き返すわけです。(嫌われるの、そういうところ!)

その後、呪いの服のせいで色々あって暴れて、引玉の神殿をめちゃくちゃに壊してしまいます。

 

引玉はブチギレて、ついお前なんて死んじまえ!」って言ってしまいます。呪い付きの服を着ているので、その指示に従ってしまうんですよね。

 

それを見た周りの神官は、引玉がわざと着せて、わざとそういう指示をしたって100%思うわけです。

部下がいくら「私が権一真のことが大嫌いで、勝手に贈りました」って言っても、主人の引玉を庇っているんだ、ってみんな思うじゃないですか。それに「死んじまえ」って口にしたのが引玉なのは、紛れもない事実なわけで。(もう引玉が可哀想すぎる。)

 

それで、罰として引玉は人間界に落とされます。人間界に落とされてから、部下の魂を花城に救われ、その恩に報いるために鬼界で花城の部下になります。

二人の結末

終盤の決戦の時に、君吾は引玉に天庭に戻って右腕になることを条件に、君吾の味方になることを打診するんですよね。そして、権一真の法力を引玉につぎ込んで、「元々は君のものであるべきなんだ」と、法力がある最高の状態を味わせて誘惑します。そして全法力を注ぎ込まれた後、君吾の味方になったかと思うと、引玉は君吾に向けて攻撃します。

 

この時の引玉の言葉が心に突き刺さります。

 

「権一真のことは恨んでいるし、大っ嫌いだよ。どれだけ俺に迷惑かけたと思ってるんだよ。恨むぐらい恨んでもいいじゃないか。恨むのは恨んでいるけど、だからって蹴落としたいわけじゃないんだ。元々俺の物をとったって言うけど、’’才能’’以外、生まれつき誰かのものなんてないんだ。他の人のものなんていらない。上天庭に戻りたいし、十位以内に入りたいけど、自分自身の力でのし上がったんじゃないなら、意味ないんだよ。確かにあいつは俺より強い。・・でも俺は少なくとも、それを認めることができる。」

 

もう引玉の最後のプライドなんだろうなと思うと、泣けてきます。これを言った後、引玉は君吾に殺されます。殺される直前の謝憐との対話も心に突き刺さります。

 

引玉:「権一真は天才で、俺は普通の人なんだ。どれだけ頑張ってもここ止まりなのはわかってる。わかってるけど、彼に対して怨念がないと言えば嘘だし、’’死んじまえ’’と口にしたのが本心だったのか、つい口にしただけなのか、考えるのも怖い。でも、ただただ・・悔しいんだ。この期に及んでも、全てを受け入れて死んでいくことが悔しいんだ・・。」

 

謝憐:「もう十分努力しているよ。十分頑張った。大多数の人よりうまくやったと思うよ。」

引玉:「大多数の人より上手くやった?・・でも俺がなりたかったのは人間ではなく’’神’’なんだ・・。」

 

もうさ、昔から自分はこれだけ努力しているのに、これだけ努力してやっとここまでしかできないのに、権一真に「才能」だけで追い越される無念さ、悲痛さがよく伝わってきますえーん

 

最後の方に、引玉の魂を権一真が養う描写があるので、多分時が来れば引玉は蘇ることができるのかもしれません。その時に引玉のままなら、権一真に貸しができるので、それも引玉としては嫌だろうし・・

 

記憶だけ失って二人の新たなスタートになる方が良いのか。・・いつか何百年後に、カップルとしての二人も見てみたいなとか。ただただ、引玉が悲惨すぎて、二人にとって良い結末を迎えてほしい、そう願います泣くうさぎ

 

天官賜福はほんと、脇役のキャラクターまで緻密に人物像が描かれていて、生き生きとしています。脇役だけではもったいない。これだけで一冊書けるんじゃないかと思うくらいです。

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