ネタバレを含むので、まだ最後まで視聴していない方はご注意ください。この作品の一番の魅力は、謝憐と花城の愛情の物語だけでなく、他の登場人物の描写が丁寧に紡がれている点だと思います。

 

師无渡と師青玄の兄弟愛、賀玄の敵討ちの道のり、賀玄と師青玄のやり場のない友情、帝君の統治のあり方、謝憐の成長の軌跡.....

何度観ても新しい発見があり、他の登場人物の深掘りがいくらでもできる、そんなところが一番の魅力だと思っています。

 

今日はまずは師无渡(水師)について

天官賜福の中で一番自信に満ちていて傲慢な人物といえば、師无渡ではないでしょうか。水を司る神で、次第に財運の神としても崇められた師无渡。

 

まだ人間だった時、風水兄弟は大富豪の家に生まれますが、弟である師青玄は「白話真仙」という妖怪に目をつけられ、両親が早くに亡くなり、家財は親戚の争いの対象になります。師无渡は苦労して修行を重ね、ついに天庭に登り、弟の師青玄も天庭に引っ張り上げ、一歩一歩天庭で、師无渡は五師のうちの水師、師青玄は風師にまで登り詰めます。

 

師无渡は怖いもの知らずで傲慢な性格ですが、唯一の弱点は弟の師青玄といっても過言ではありません。ただただ、弟の師青玄が何の憂いもなく笑顔でそばにいてくれたら...と願う、弟思いの心優しいお兄さんなのです。

 

そんなお兄さんの庇護のもと、師青玄は何百年も憂いのない天庭生活を満喫します。風師扇を開けば悪を挫き、顔色も変えずに十萬功徳をばら撒く、明るくて、友好的で、誰からも愛される風師として生きるのです。しかしある時、師青玄は自分のこの生活が、本来他の人の運命だったものを、お兄さんが盗んできたものだと知ることになります。

 

師青玄は小さい頃「白話真仙」という妖怪に目をつけられ、何十年逃げても、隠れても、妖怪から逃れることはできませんでした。

この妖怪に目をつけられると、壮絶な人生を送って死ぬことが多いのです。そんな弟の運命を変えるべく、師无渡は本来飛昇して神官になる運命だった人「賀玄」の運命と、弟の運命を入れ替えてしまうのです。つまり、弟が受けるべきだった災悪をもろとも全て、賀玄と交換してしまったのです。

 

元々弟の師青玄には飛昇して神官になる運命はなかったところを、お兄さんがこうして「引っ張り上げた」のです。もちろん全ての災悪を被った賀玄は、壮絶な人生を送ることになります。

 

賀玄が壮絶な人間としての人生を終え、復讐をすべく「鬼」になり、それが後の、鬼の等級で言うと最上位の「絶」である「黒水沈舟」になります。「花城」を「絶」の鬼にならしめたのが「愛」であるのに対し、「黒水沈舟」を「絶」にならしめたのは「復讐」だったのです。

そして、賀玄は天庭に正体を隠して、五師の一つ「地師」になりすまして、復讐の機会を伺います。この「地師」と師青玄は、親友として、長年過ごすことになります。

とうとう賀玄に待ちわびた、師无渡への復讐の機会がやってきます。賀玄は兄弟を追い詰め、師青玄に選択肢を二つ与えます。一つは、師无渡が師青玄に最低最悪の運命をつけること、もう一つは、兄である師无渡を師青玄が自分の手で殺すこと。

 

しかし、師无渡はその手には乗らず、最後の瞬間まで賀玄と戦います。弟、師青玄の喉を掴み殺そうと見せかけた時に、賀玄が助けたのを見て、賀玄の心の奥にある師青玄への友情(長年親友として過ごした何らかの情)を確認します。

 

その気持ちを確認した後に、わざと賀玄を怒らせ、自分を殺すように仕向けます。そして激昂した賀玄に弟の目の前で殺されてしまいます。師无渡は弟を生かすために、最後は自分の命をかけて、賀玄と決着をつけたのでした。

 

弟に与えられた理不尽な運命なんて信じず、運命は自分で変えてやる、と生きた師无渡。傲慢だし、傲慢たる才能も、実力も持ち合わせていて、間違った道だとしても最後の最後まで貫いて、それはそれですごくかっこいい生き様だと思います。最愛の弟を守るため、最愛の弟からの同情も理解も必要としない、そんな傲慢な人生だったのです。

 

そんなお兄さんを持って、師青玄は幸か不幸か、もう考えても答えが分かりません。やるせない気持ちになります。この3人の絡みは、もう本当に答えが出ません。自分が師无渡だったら、最愛の人を守るために、他に選択肢がなかったら、自分に運命を変える実力があったら、きっと同じ選択をしていただろうと思います。自分が地獄に堕ちようとも、最愛の弟の笑顔を守りたい...誰が何と言おうと、私はそんな師无渡が大好きです。

 

ほんと、師无渡と師青玄と賀玄だけのストーリーで一冊成り立つと思います。それだけ内容が濃くて、心理描写が丁寧で、深掘りしがいのある魅力的なキャラクターなのです照れ