玉縄図書館の成り立ち
鎌倉市玉縄図書館は市内4館目の図書館として昭和62年(1987年)4月、JR線、湘南モノレール線大船駅から徒歩10分ほどの玉縄行政センター2階に開館しました。鎌倉市は行政区ごとに地域図書館を配置しているため、大船駅周辺には玉縄図書館と大船図書館があります。駅にほど近い大船図書館と駅から少し離れた位置にある玉縄図書館。それぞれ、まちの顔を現す特徴があるようです。
ちなみに鎌倉市の図書館は、明治44年(1911年)7月、実業家で篤志家の東郷慎十郎(慶應2年5月12日~昭和5年4月20日)氏らの寄付によって町立図書館として開館。現在は中央図書館と、玉縄、腰越、大船、深沢各地区の行政サービスセンターに併設の図書館全5館となっています。
鎌倉市内でも独自の歴史を持つ玉縄地区の図書館
玉縄図書館は、JR線、湘南モノレール線大船駅の西口から大船観音を拝みつつ、柏尾川を渡って南に進んだ先を右に入った静かな住宅地にあります。近くには神奈川県立フラワーセンター大船植物園(平成29年7月3日~平成30年3月31日まで、改修工事に伴い一時閉園)があります。
行政センター内ということもあり、学習センターや行政サービスコーナーの利用ついでに寄ることもできるのが鎌倉市の地域図書館の特徴です。玉縄周辺地区は、横浜市栄区、戸塚区、藤沢市に隣接しており、鎌倉市中心部とは異なった、さまざまな文化が交じり合うところとなっています。
また、玉縄とえいば、小田原北条氏にゆかりの深い玉縄城のあった場所として、地域の歴史を大切に思う方も多く、歴史に関する市民活動が活発なことが特徴です。
そんなまちにある玉縄図書館では、独自の歴史や文化に触れることができます。
ふらりと立ち寄ってみれば、そこには未知の世界への扉が…
●歴史を知る 玉縄城
玉縄城は鎌倉幕府崩壊後の戦国時代、相模制覇を目指す伊勢宗瑞(通称・北条早雲)が、永世9年(1512年)に小田原城の支城として、相模・三浦をおさえるため築城したと伝えられる山城です。現在その敷地は清泉女学院となっています。
鎌倉といえば、鶴岡八幡宮や源頼朝ゆかりの史跡が観光名所となり、よく知られていますが、戦乱により荒廃したのちの鎌倉を守ったのは小田原北条一族であり、その中心となったのがこの玉縄地区だったことは忘れてはならない鎌倉の歴史の一ページです。
玉縄図書館の蔵書にはこうした歴史を調査したり、地域の風土をまとめたりした資料が収蔵されています。中には市民が丁寧に編纂した歴史書もあり、充実の資料類を閲覧することができます。
花の咲き方や色はソメイヨシノに似ていますが、2月中旬の比較的気温の低い時期から咲き始める早咲きの品種で、花期も一ヶ月と長いことが特徴。玉縄城にちなんで、平成2年に「玉縄桜」として種苗登録を完了。鎌倉市民有志の里親制度などで苗木の普及活動がすすめられ、JR大船駅西口付近や大船観音寺などで玉縄桜を楽しむことができます。

ちょっとおまけ 植樹第1号はどこ?
玉縄桜の記念すべき植樹第1号は、平成20年2月14日、図書館のある玉縄行政サービスセンターに植えられたものだそうです。
書架と展示スペース
●児童書コーナー
「子ども読書の日」を中心に(4月23日~5月12日)行われた「こどもほんのき」には
子供たちおすすめの本がたくさん紹介されていました。
●展示スペース
入口そば左手奥には展示スペースが設けられており、企画に応じた展示がされています。
取材時(4月)は、鎌倉市図書館と市民グループやNPOとの協働事業「身近な図書館づくりプロジェクト」のプレ展示がおこなわれていました。
「身近な図書館づくりプロジェクト」とは?
●図書館とともだち・鎌倉
「身近な図書館づくりプロジェクト」を企画・提案した「図書館とともだち・鎌倉」は、平成10年(1998年)1月、「本が好き、図書館が好き、鎌倉が好き」という市民が集まって発足しました。図書館に関するさまざまなテーマについての勉強会、読書会、おはなし会、各地の図書館の見学など幅広く活動を繰り広げながら、鎌倉の図書館、読書環境の向上に取り組んでいます。
また、全国の図書館友の会との交流や、行政、議会等各機関への働きかけも行っており、会員は現在約130名ほど、2013年には発足15周年を迎えました。
「身近な図書館づくりプロジェクト」では、「玉縄歴史の会」、「憩い宿」、「認定NPO法人鎌倉広町の森市民の会」など地域の団体と協力し、身近な地域図書館の利用促進を行っています。
「図書館とともだち・鎌倉」の特徴のひとつは、毎週、例会を行っています。読書会、おはなし会、イベント…等とにかく事業が幅広いので「情報共有をするため」に例会を毎週行っているとか。活動が活発な様子が伝わってきます。
●玉縄歴史の会
「玉縄歴史の会」は、伊勢宗瑞(通称・北条早雲)ゆかりの地域のシンボル的な存在である「玉縄城」を中心とした玉縄地域の歴史や風俗・習慣などを探索し、研究しようと「玉縄の歴史を語る会」として、平成10年(1998)10月に発足しました。
その後、玉縄のみならず周辺地域の歴史などを研究・学習し、そして、その成果を若い世代へ語り継ぐことなどを目的に「玉縄歴史の会」と名称を変更して活動を続けています。現在会員総数は、約70名ほどです。(平成28年現在)
右から2人目「玉縄歴史の会」会長 関根 肇さん
この日は、展示に使用する「玉縄歴史の会」所蔵の玉縄城ゆかりの史跡の手書き地図や航空写真を持参
「図書館とともだち・鎌倉」例会は、「身近な図書館づくりプロジェクト」玉縄地区の行事の打ち合わせを中心に次々とテンポよく議題があがり、話し合いが進んでいました。
また「玉縄歴史の会」会長・関根肇さんも途中から玉縄図書館でパネル展示「玉縄の歴史と文化は深い!!」の打ち合わせで合流。日頃から若い世代へふるさとの歴史を伝えることに力を注いでいる関根さんは、今回の図書館との協働事業については、「図書館を起点にして玉縄城があったことや住民の昔からの暮らしを、より多くの人につたえられれば」との思いを語ってくださいました。
寄り道さんぽ 図書館とまち歩き
龍寳寺の芍薬
鎌倉幕府の繁栄の歴史は、広く知られていますが、繁栄ののち、荒廃していく鎌倉を支えたのは、玉縄城を中心としたこの地の玉縄衆でした。鎌倉幕府、そして現在の鎌倉市中心部からは離れているため、あまり知られていませんが、史跡や独自の風土の息吹を感じることができるまちです。
今回は、玉縄城にゆかりのある場所と最寄り駅の特徴を探して散策してみました。
●大船観音寺
( 鎌倉市岡本1-5-3)
山号仏海山、曹洞宗。本尊は白衣観世音菩薩。大船駅からもその白く美しい胸像が拝まれ、シンボル的な存在でもあります。昭和2年、金子堅太郎氏、頭山満氏、清浦圭吾氏、浜地天松氏、花田半助氏ほか当時の名士が「観音思想の普及と世相の浄化」を祈願して観音像の建立を発願しましたが、その後資金難や戦争の影響により長く工事が中断。昭和29年、高階瓏仙禅師、安藤正純氏、五島慶太氏らが発起人となって財団法人「大船観音協会」が発足し修仏に着工し、昭和35年4月に完成して開眼供養しました。その後、昭和56年11月、黙仙寺の管理から「曹洞宗・大船観音寺」創立となって現在に至ります。
左:美しい姿の観音像
右:境内には原爆慰霊碑や「」原爆の火」の石灯籠のほか子育て地蔵尊、厄除け地蔵尊が祀られています。
●玉縄城の面影をしのぶ
1512年(永正9年)に鎌倉の再建を誓って小田原北条氏の祖・伊勢宗瑞(通称北条早雲)が築いたと伝えられる玉縄城。当時の面影はわずかとなっていますが、ゆかりの史跡をめぐることができます。その中の数か所をご紹介します。
・ 龍寳寺
(鎌倉市植木128)
陽谷山瑞光院。曹洞宗、開山は泰絮宗栄(たいじょそうえい)と伝えられています。創建年月は不明ですが、1575年(天正3年)、玉縄6代城主北条左衛門大夫氏勝が現在地に移し「大応寺」とし、当時の住僧良達の助言により玉縄城は無血開城したとも伝えられており、玉縄地区、城の歴史に大きな影響を与えた寺でもあります。その後時代の変化などに伴い、「龍寶寺」に改称され現在に至ります。玉縄城主歴代の位牌や実朝の位牌も安置されおり、本堂左側に玉縄三代の供養塔があります。
また境内には、地蔵堂などの史跡や玉縄民俗資料館もあり、じっくり過ごしたくなる場所です。
・諏訪神社
(神奈川県鎌倉市植木96)
龍宝寺からほど近く、諏訪神社の信号を少し入ったところが諏訪神社の入り口。村社で旧玉縄村(城廻・関谷・岡本・植木)の総鎮守、祭神は建御名方神(たけみなかたのかみ)。玉縄城主三代北条綱氏成が、鬼門除戦勝祈念として諏訪神社を勧請したものを廃城後、村民が荒廃を憂い、この地に遷座したと伝えられています。
・七曲り坂
玉縄城の大手口にあたり、登りつめたところがかつての玉縄城です。現在は清泉女学院となっていますす。くねくねと折れ曲がった坂道に、難攻不落のお城の痕跡が感じられるようです。
・首塚
(鎌倉市岡本2丁目)
1526年(大永6年)に安房里見氏が玉縄城を攻略しようと戸部川(現・柏尾川)まで攻めて来たとき、大船の甘粕氏や渡内の福原氏が玉縄城主に協力して戦いました。この戦いで甘粕氏は討死し、城兵合わせて35名の首をここに埋葬して塚としました。
●大船軒
(鎌倉市岡本2-3-3)
1898年(明治31年)の創業の大船軒は、日本で最初に駅弁サンドウィッチを販売。その後、1913年(大正2年)4月に大船駅で販売が開始された「鯵の押寿し」は今でも人気の駅弁のひとつです。
昭和の雰囲気の残る「茶のみ処大船軒」では、できたての鯵の押寿しをいただいたり、カフェとしての利用もでき、散策後の一休みにぴったりです。
左:レトロな外観と調和した落ち着いた雰囲気の店内
右:「伝承鯵押寿し」を美味しくいただきました
玉縄図書館からのメッセージ
玉縄図書館・佐藤敦子館長
今回取材にご協力くださった佐藤敦子館長からのメッセージ
「身近な地域図書館でできることを、これからももっと」
この4月に着任したばかりですが、玉縄図書館は、地域の歴史に誇りを持っていらっしゃるお客様が多いという印象です。蔵書は約7,200冊ほどですが、データベース利用や他館から取り寄せるなど、玉縄図書館にない資料も利用することができます。
図書館は地域の最初の窓口でありたいと思っています。ここからどこへでもつながっていける場所として活用してほしいですね。玉縄地区ではさまざまな団体が自主的に活動をしています。図書館でインプットしたものの成果が図書館に集まり保存され、次の世代に広まっていく場所でありたい。本と人の結びつきの先に、人と人との結びつきまでできる、そんな図書館を目指します。
【イベント情報】
「身近な図書館づくりプロジェクト」進行中
「図書館とともだち・鎌倉」と鎌倉市図書館の協働事業「身近な図書館づくりプロジェクト」は、今年度(平成29年度)、玉縄図書館、腰越図書館と共に楽しいイベントを展開中です。まちのなかの自然や歴史、文化を知るチャンス!ぜひ足を運んでみましょう。
イベント詳細は「図書館とともだち・鎌倉 協働事業身近な図書館プロジェクト」やチラシ、鎌倉市図書館HPなどでご確認ください。
現在、身近な図書館づくりプロジェクト展示「玉縄の歴史は深い!‼」開催中です。
(平成29年6月1日~7月30日)
古い写真のパネルや玉縄歴史の会の渋谷雅子さんによる絵から玉縄の昔の姿を知ることができます
展示に関連する資料がカウンター横に集められています
EDITORIAL NOTE
玉縄を中心とする地区を訪ねてみて、その歴史の豊かさ、柏尾川と緑多い山を知り、ゆっくり散策を楽しむことができました。図書館で地域情報を収集してみると、行ってみたいところがたくさんでてきて…。今回ご紹介できなかった史跡や神奈川県立フラワーセンター大船植物園も訪ねてみたいと思います。
佐藤館長からは、バリアフリー活動の一環として、司書さんたちが手話の講習を受けて行う「手話付おはなし会」の取り組みなど、鎌倉市図書館全体のお話もうかがうことができました。
手話講習会の様子
なお、玉縄図書館では、平成29年(2017年)6月1日~8月31日まで、これまで行っていた午後7時までの夜間開館を中止し、午後5時閉館が試行されます(大船図書館は従来どおり夜間開館実施、月末金曜日は午後8時まで開館)。夜間利用者の少ないことが理由となっているようです。図書館がまちの中で果たす役割や存在意義について改めて考える機会ともなる取材でした。
ご協力くださった皆さま、ありがとうございました。
鎌倉市立図書館で所蔵されている参考文献です。
『玉縄の歴史と文化 玉縄風土記』 2014年 玉縄歴史の会
『かまくら玉縄の歴史散歩』 2012年 玉縄歴史の会
『甦る!玉縄城七つの謎を解く』 2016年 玉縄城まちづくり会議
『史跡 玉縄城 祝 玉縄築城五百年』 2011年 石井博(仮)玉縄城を語る会
『玉縄北条氏 論集戦国大名と国衆9』 2012年 浅倉直美 岩田書店
『玉縄桜に魅せられて』 2917年 玉縄桜をひろめる会
『かまくら昔ばなし』 2014年 関根肇
『神奈川歴史探訪ルートガイド』 2016年 横浜歴史研究会 メイツ出版
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鎌倉市玉縄図書館
利用案内
開館時間
全日:9:00~17:00
休館日
アクセス
住所:〒248-0033鎌倉市岡本2-16-3
電話:0467-44-2218
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鎌倉市図書館HP:https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/
玉縄図書館地図:https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_map05.html
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取材協力/画像・資料提供_鎌倉市玉縄図書館/図書館とともだち・鎌倉/玉縄歴史の会
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取材_ 安木由美子