
東海道五十三次の宿場町としても知られる戸塚は、明治20年、横浜・国府津間の 鉄道の開通により戸塚駅が設けられて以降、駅を中心として発展してきました。
区としては、鎌倉郡内の1町7か村(戸塚町、川上村、豊田村、中和田村、本郷村、瀬谷村、中川村、大正村)が横浜市に合併して、昭和14(1939)年に誕生。昭和30年代から首都圏のベッドタウン化が進んだ横浜市では、郊外部に宅地が広がり、戸塚区は市内最大の面積、 人口を有するに至りました。行政区再編成により瀬谷区(昭和44年)、栄区泉区(昭和61年)と分区を経て、現在は、面積は最大(35.70k㎡)ながら人口は市内第4位(275,996人)となっています。(平成29年1月現在 区政統計要覧2017より)
戸塚図書館は、昭和53(1978)年11月、戸塚センターの1階に横浜市内4館目の図書館として開館、来年40周年を迎えます。戸塚センターは2階が戸塚地区センター、3階が公会堂となっています。JR線、横浜市営地下鉄線戸塚駅から徒歩5分ほど、駅前を流れる柏尾川を眺めながら歩いていくことができます。

●本の相談・予約申込カウンター(レファレンスカウンター)
戸塚図書館は地区センターや公会堂の利用者や柏尾川散策のついでに寄る人も多く、活気があります。また、センターロビーでは写真展など市民団体の展示が行われることも多く、その延長で図書館にふらりと立ち寄ることもあり、「本を借りる」という目的がなくても入りやすい、そんな雰囲気があります。
入口正面には大活字本の書架。高齢者の利用が多いことに配慮されているようです。また、右手には、「本の相談・予約本申し込み窓口」(レファレンスカウンター)が用意されていて、声をかけやすい雰囲気に。「ここでは、本を探したり、知りたいことのヒントを一緒に探したり、内容によっては区役所の窓口をご紹介することもあります。ぜひ、なんでも気軽に相談してみてください。」とは司書の足立祐子さん。入口そばに独立した広いレファレンスカウンターがあるのは実はとても便利です。ぜひ活用したいですね。
●子ども図書室コーナー
平日の午前中は高齢者や赤ちゃん連れの親子の利用が目立ちます。貸出カウンター右手には広々とした子ども図書室。児童書のほか、子育て関連情報や子ども向けイベント等のチラシを並べたテーブルや職業体験に来た中学生による本の紹介コーナーなど、読書のサポートになるコーナーが設けられています。また、読み聞かせができる絵本コーナーだけでなく、小学生優先の閲覧席も充実。それぞれの年齢に応じたスペース作りがされていて、子どもたちがゆっくり過ごせる空間になっています。
左:小学生優先席
右:カラフルな絵本コーナーでは「おはなし会」も行われます

図書館近くの戸塚小学校からは、毎年、2年生がまち探検として見学にやってきます。館内を司書さんの案内で見学したあと「質問はありますか?」と尋ねると、本の並び方などと合わせて、天井2か所にあるミラーについて「なんでついてるんですか?」との質問がよくあるそう。子ども図書室に死角ができないようにとの配慮なのですが、子どもの視線を知ることも館内のレイアウトに活かせそうです。
●3種類のおはなし会
戸塚図書館では1~3歳児対象の「ちっちゃなおはなし会」、4歳~小学校低学年対象の「定例おはなし会」、「土曜ニコニコおはなし会」の3種類のおはなし会があります。
「ちっちゃなおはなし会」は建物内2階の地区センターの和室を利用していることもあって、赤ちゃん連れに好評。多い時には30組ほどが参加しています。「土曜ニコニコおはなし会」は地域のボランティアグループが交代で行っています。
ボランティアおはなし会で活動してるグループは7団体
おはなしパレット・戸塚、かたり語りの会、かながわこどもひろば、てんとうむし、とつかおはなしの会、
森の絵本ひろば、矢部小おはなしころころ

戸塚図書館では複合館であることのメリットを生かしたり、隣接する施設と連携するなど「実体験と合わせて本で調べものをする」機会を取り入れた企画事業を毎年行ってます。中でも夏休み実施の小学生向けイベントは人気です。
●地区センターとの共催 ランチ作り体験後、図書館で調べ学習
2階の地区センター調理室でランチ作りを体験し、そのあと図書館で司書さんから本で調べる方法の説明を受け、食材や調理についてのクイズの答えを調べます。「美味しくランチを楽しんで、調べものが上手になれる」という、建物内に調理室があるからこそできる企画です。
ランチ作りのあとは、調べ学習の仕方を勉強して、クイズにチャレンジ!
●隣接するポンプ場との共催 戸塚ポンプ場見学&図書館で大研究
普段は立ち入ることができないポンプ場をポンプ場職員さんの説明を受けながら見学し、そのあと図書館へ移動して、司書さんから調べものの仕方を聞き、水に関するクイズに挑戦します。建物の外からは中の様子がわからないこうした施設見学は貴重な体験です。知識の幅と本の利用の幅が広げられるいい機会となりますね。

横浜市では、平成26年3月に「横浜市民読書活動推進計画」を策定し、各区役所と地域図書館が主導となって図書館関連施設や地区センターの図書コーナーなどと共に読書活動推進を行っています。図書館の地域への働きかけはその中心的な役割です。
●戸塚区役所 4か月児健診待合コーナーでのよみきかせ
出産前、母親教室で図書館のPRチラシを配布したり、戸塚区役所 5階で行われる4か月児健診で、司書さんが会場で絵本やわらべうたを紹介するなど、図書館利用のPRをしています。赤ちゃんとのコミュニケーションのひとつとして絵本を加えてほしい、赤ちゃん連れでも気軽に図書館へ足を運んでほしいという、図書館利用促進の取り組みのひとつです。
子どもの本のコーナーには「読み聞かせ絵本コーナー」や「はじめてものがたりコーナー」など
年齢に応じて本に親しめるよう書架に本が用意されています
●区内の小中学校との連携
近隣の小学校や中学校の依頼に応じて司書さんが学校へ出向き、要望に応じて本に関する講座などを行っています。
小学生向けのブックトークや学校図書ボランティアさん向けの読み聞かせ講座や本の修理の研修はもちろん、ユニークなところでは、中学校でお昼の放送での朗読のコツのアドバイスなども行っているそうです。
また、中学生の職業体験では区内全校を受け入れているため、多いときは一週間に2校受け入れることも(スケジュールが合わず受け入れられないこともあります)。図書館の仕事に興味を持っている生徒たちは興味深々で熱心に活動しているそうです。
子どもの本のコーナー
左:チラシの並ぶテーブルの上方、壁面には見学に訪れた小学生からのたくさんのお礼コメント
右:中高生のビブリオバトル(本の紹介)はユニークな選書もあり、読書の参考になりそう

東海道五十三次之内戸塚元町別道/初代広重(戸塚駅地下通路のパネル)
平成6(1994)年に戸塚駅西口再開発事業都市計画が決定し、平成25(2013)年3月、第1地区第二種市街地再開発事業が完了したことで、ぐんと大きく便利になった戸塚駅。同時に新庁舎も移転し、新たなまちづくりが進む一方で、かつての東海道戸塚宿の史跡や緑豊かな地域も残っています。今回は自然と史跡のほか戸塚図書館周辺の専門図書館を中心に、本と共にくつろげるスポットを巡ってみました。
●柏尾川
戸塚区の中央部を南北に流 れる柏尾川は、全長11キロの境川水系最大の支流。藤沢市新川名橋で境川に合流します。東戸塚駅あたりからJRの線路と並行して流れており、JR戸塚駅ホームからもその悠々と流れる姿を望むことができます。安政3(1856) 年に桜の植樹がされて以降、植樹は続き、桜並木は古くから花見で賑わってきました。しばしば氾濫を繰り返したという柏尾川ですが、改修・耕地整備(大正14年・昭和8年)が行われ、現在の穏やかな姿になっています。朝日橋のたもとには、その歴史を物語る豊塚堰碑があります。
●フォーラム(男女共同参画センター横浜)情報ライブラリ
(戸塚区上倉田町435-1)
フォーラムは昭和63(1988)年9月、男女共同参画社会の推進を目的として戸塚区に開館(当時の名称は横浜女性フォーラム)。その後、フォーラム南太田(男女共同参画センター横浜南)、アートフォーラムあざみ野(男女共同参画センター横浜北)が開館し、横浜市の男女共同参画センターは3館となり、フォーラムはメイン館となっています。
情報ライブラリは3館それぞれにあり、女性にも男性にも役立つ男女共同参画に関する本を中心とした蔵書(合計66,000冊)を揃える専門図書館です。
戸塚駅西口を出て、朝日橋を渡ると見えてくる開放的な雰囲気の建物「フォーラム」
戸塚図書館からは柏尾川を挟んで向かいに見えます
男女共同参画がテーマというと固いイメージかもしれませんが、実は人が生きていくすべてのシーンにおいてかかわる問題でもあります。フォーラムのライブラリでは、性差に関する本だけでなく、社会の課題解決に役立つような実用書も幅広く収集されています。毎月2回、新刊を入れているので旬な情報を手にすることができるうえに、フォーラムで行われる講座と連動して、参加者が必要な本にすぐ出合えるよう用意されているのが特徴的です。じっくり準備に取り組みたい人生の問題から、今知りたい課題についての最新情報まで、コンパクトながら充実のラインナップで利用者を迎えてくれます。また、コーナー展示は1~2週間で展示替えをしたり、外部に展示資料のセット貸出も行うなど、資料活用を積極的におこなっています。
左:フォーラム1階右手が情報ライブラリ。明るく開放的な総合受付カウンター
右:A「女性論とその周辺」、B「生き方・しごと」など独自の分類による書架も専門図書館ならでは
左:充実の女性と仕事の情報コーナーは入口近くに
右:新聞などの書評を添えて展示された本は内容がわかりやすく、次々と貸出に
男女共同参画センターの専門図書館ということもあり、蔵書の分野、利用者が限定的なのでは、と思いましたが、案内してださった管理情報課の金涼子さんによると「近所の方は一般図書館と同じように利用してくださっています」とのこと。
また、以前からニーズを感じていたという「子どもコーナー」を新たに設置。子どもと絵本を楽しみながら、パパ、ママにも役立つような幅広いテーマの本―マネープラン、キャリアデザイン、育児の悩みなど―の書架も合わせて用意したことで、この分野の利用や貸出が増えているそうです。
右:新設された子どもコーナー
左:子どもコーナーそばの書架には、子育て世代の気になるテーマの本がまとめられています
開館当初から力を入れている自助グループ―ギャンブル依存、アダルトチルドレン、転勤族妻の会―の活動支援に加え、最近では男性の生き方、働き方、育児についての課題解決にも積極的に取り組み始めるなど、常に社会の今を反映し、ニーズに応える展開が続けられています。
イベント「「親子の絵本ピクニック」では、青空の下、たくさんの親子連れが絵本を楽しみました(平成29年5月20日)

ライブラリ奥の一角に設けられた活動交流コーナーは、予約制で少人数の自主活動グループや勉強会等に無料で利用できます。活気に満ちた人気のスペースです。
本・雑誌・ポスターはひとり10冊まで2週間貸出可。バスケットに入れて持ち運べはじっくり本を選べます。
こうした図書施設の快適性に対する配慮は嬉しいですね。
「フォーラムは、社会情勢を察知してすぐに企画展示に反映できることが強みです。現在も、生きやすく寛容な社会でみんながハッピーになれるような企画を計画中です。たくさんの人に利用していただきたいと思っています。ぜひ、気軽に足を運んでみてくださいね。」とのとでした。
●ふらっとステーションとつか
(戸塚区吉田町104-1ザ・パークハウス戸塚1階)
フォーラムで「近隣でフォーラムの本を閲覧できる場所が2か所あるんですよ」と教えていただき、早速行ってみることに。
ふらっとステーションとつかは、平成26(2014)年3月にオープンしたコミュニティカフェ。ふらっと自由に立ち寄れて、人が交流できる「みんなの居場所」として、カフェスペース、イベント、ギャラリー利用・・・と様々な形で地域の人に愛されている施設です。
入口近くの本棚にありました、フォーラムから貸出を受けている本
店内で閲覧可能です
左:手作りランチは売り切れになることも
右:相席した常連さんの手作り絵本カートは、お子さん連れに喜ばれているそうです
ふらっとステーション・とつかの情報紙「わくわくだより」には、さまざまなイベントの情報やコラムが掲載されています。ぜひふらっと立ち寄って、チェックしてみましょう。
●こまちカフェ
(戸塚区戸塚町145-6 奈良ビル2F)
戸塚図書館からもほど近い静かな住宅地に位置するこまちカフェ。「子育てをまちでプラスに」をコンセプトに、2012年に発足した、こまちぷらすが運営しています。子育てをしている人や子ども、地域の人がつながる場づくりをおこなっています。ここでもフォーラムの本を閲覧できます。
フォーラムの本は一角にまとめてあり、店内で閲覧可能
靴を脱いで上がる店内は、日差しが差し込み、木のぬくもり溢れる明るい雰囲気。安心安全に配慮した手作りランチや、子どもにやさしい木のおもちゃ、絵本などが用意されており、大人も子どももほっとリラックスできる空間になっています。うかがったときは、お子さん連れ、雑貨マルシェhaco+のオーナーさん、奥のイベントスペース利用の人などが、思い思いにくつろいで過ごしていらっしゃいました。
左:手作り品の並ぶ手作り雑貨マルシェhaco+(小箱ショップ)
右:絵本と木のおもちゃ
こまちカフェでは、毎月さまざまなイベントが開催されています。また、運営する特定非営利活動法人こまちぷらすでは、子育てだけでなく地域のさまざまな課題解決にも取り組んでおり、そんな活動をお手伝いするこまちパートナーの募集もしています。できることを少しずつ始める…そんなきっかけを用意してくれる場所でもあるようです。
●八坂神社
(戸塚区戸塚町4289)
戸塚宿は、日本橋から数えて5番目の宿場町として慶長9(1604)年に成立。隣宿の藤沢、保土ヶ谷(慶長6年)に遅れること3年でした。現在の戸塚区内の南北にまたがっており、全長11.7㎞ほど。沿道には旧東海道の面影を残す史跡があり、歴史散策を楽しむことができます。
戸塚駅を過ぎ、旧東海道沿い、藤沢に向かう道中にある八坂神社は、通称お天王様と呼ばれ昔から親しまれている神社です。元亀3(1572)年、牛頭天王社を勧請したのが始まりと言われており、毎年7月14日に行われる「お札まき」は、横浜市指定無形民俗文化財に指定されています。
お札まきは女装した10人の男性が歌いながら町内を巡り、五色のお札をウチワで煽って天に舞わせるもの。昔はこの日までに田仕事を終え、周辺の農村から多く人が集まったそうです。今も夜店が出るなど賑わいをみせています。

「本の相談・予約本申込」カウンターで皆さんをお待ちしています!」頼もしい戸塚図書館の皆さん
(この日不在は針谷裕子さん)
後列左から 田中香津子さん原ゆかりさん、比企野康子さん、長谷川祐子館長
前列左から 菊池真理さん、足立祐子さん
長谷川祐子館長からのメッセージ
「地域に愛される図書館に」
駅から近いですし、いろんな世代の方がいつでもふらっと立ち寄れる図書館でありたいと思っています。建物1階のワンフロアーなので、ベビーカーも安心ですし、お子さん連れの方にも気軽に足を運んでほしいですね。子どもの頃に読んでもらった本は大きくなっても覚えているものです。読み聞かせなどで本を楽しむ習慣がつくことは、その後の読解力にもつながると思います。わたし自身、子どもが小さかった頃にもっとしてあげればよかった、と思っているので、ぜひ子育て中の方には図書館へ通ってほしいと思います。

長谷川館長に勧められて「フォーラム」へ行ったことがきっかけで、「ふらっとステーション・とつか」のランチ情報を得て、さらに「こまちカフェ」でお茶を飲む…というコースをめぐることができました。本を介して人、活動、場所などいろいろなものがつながることを実体験して楽しむ寄り道さんぽとなりました。
旧東海道の史跡は、行きたいとこが目白押し。戸塚区役所発行の「旧東海道戸塚宿の歴史を歩く散策マップ」(無料)を片手に歩いてみたいと思います。
横浜市の図書館巡りは折り返し地点に。遠くへ旅行しなくても近場で楽しめる、そんな小さな旅は、まだしばらく続きます。
【参考文献】
書名をクリックすると横浜市立図書館での所蔵が見られます。
『戸塚の散歩道』 1978年 郷土戸塚区歴史の会/編
『戸塚の歴史』 1987年 大橋俊雄/著
『戸塚区史』 1991年 戸塚区史刊行委員会/編
『横浜市営地下鉄各駅散歩』 1999年 津田芳夫/著
『写真集 とつか70年目の風景1939~2009』 2009年 横浜市戸塚区役所区政推進課
『とつか歴史ろまん』 2015年 とつか歴史ろまん新装版編集委員会/編
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横浜市戸塚図書館
利用案内
開館時間
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土曜日・日曜日・月曜日・祝(休)日:午前9時30分~午後5時
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住所:〒244-0003 戸塚区戸塚町127
電話:045-862-9411 FAX:045-871-6695
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ホームページ: http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/chiiki/totsuka/
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取材協力/画像・資料提供_横浜市戸塚図書館
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フォーラム(男女共同参画センター横浜)情報ライブラリ/ふらっとステーションとつか/こまちカフェ
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取材_ 安木由美子