
風光明媚な海辺のまちの図書館
縄文時代の貝塚、鎌倉文化を伝える県立金沢文庫など歴史的、文化的資産が多く残る海辺のまち横浜市金沢区。かつて浮世絵に描かれた「金沢八景」の面影はわずかながら、今もなお平潟湾から釣り船がゆっくりと海へと向かう姿を望むことができる風光明媚な地域に金沢図書館はあります。
平潟湾近くのこの地に、昭和55年(1980年)、地区センター併設の建物として金沢図書館は開館しました。
図書館近くの平潟湾あたり。歌川広重「金沢八景」を観ることが出来ます。
「武陽金澤八景略図」と金沢八景
図書館と地区センター内には初代広重による「武陽金澤八景略図」と金沢八景の複製画が作り付けで飾られています。全部で9枚。意外と見つけるのが難しい場所にも。ぜひ探してみてくださいね。
ガラスケースを生かしたロビー展示
建物入り口から図書館側へ歩くとすぐ目につくのは、ほぼ毎月新しく企画展示がなされている右手にある展示スペース。ガラスケースになっており、立体物や実物を展示できるのが特徴です。
金沢図書館ではこの展示ケースを活かした展示を意欲的に展開しており、来館される方の関心も高く好評とのこと。これまでに、動物や深海生物の標本、縄文土器などを展示してきました。
独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)横浜研究所の協力を得て行った「深海のナゾに挑む!」では深海生物の液浸標本(えきしんひょうほん)の展示が目を引きました。(2015年7月~8月)
ちょっとおまけ 夜はコワイ…
実物展示のメリットはそのリアルさ。来館者に好評のガラスケース展示も、閉館後の点検をする警備員さんにはちょっぴりコワイらしい。
専門機関との連携
(左:金沢動物園入口 右:関東学院大学チャペルと図書館)
平成26年4月1日に「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」が施行されたことを受け、金沢区でも区の特色を生かした読書活動推進に取り組んでいます。そのひとつとして力を入れているのが、区内の大学や専門機関等との連携です。
平成27年(2015年)11月~12月には「かなざわ大人のライブラリーツアー」として、横浜市立大学、関東学院大学の図書館と金沢図書館の館内見学と蔵書の特徴やサービスを知るツアーを全3回で実施。のべ40人が参加しました。
地域の特性を生かす
金沢区ゆかりのコーナー 直木賞受賞作や金沢区が登場する作品の紹介
直木賞受賞作品と金沢区が舞台になった作品を集めた金沢区ゆかりのコーナーは、平成26年11月に設置されました。郷土資料コーナーのほかにこうしたテーマで常設コーナーがあるのは、金沢区が直木三十五ゆかりの地であり、また数々の物語の舞台になっている証ともいえます。
作家直木三十五が慶珊寺近くに家を建てたのは、晩年の昭和8年のこと(昭和9年死去)。その墓は現在、長昌寺にあります。
多言語によるおはなし会には留学生の協力も
金沢国際交流ラウンジが横浜市立大学金沢八景キャンパス内に置かれていたこともあり(2016年4月1日金沢区役所に移転)、留学生などネイティブスピーカーの協力を得て、2011年から「多言語おはなし会」を実施しています。5回目となった平成27年(2015年)には、中国語・韓国語・スペイン語の絵本の読み聞かせやわらべうたなどを行いました。
金沢図書館にはスペイン語の絵本が揃っていて、横浜市内他館からも貸出請求が多いとか。区民のニーズを反映した蔵書構成がうかがえます。
絵本のほか外国語資料コーナーもあり、外国語で書かれた情報も手に取りやすく配慮されています。
35周年記念事業
昨年、平成27年度(2015年度)には開館35周年を迎えた金沢図書館。35周年を記念し、子ども向けの紙芝居や金沢図書館マスコット「りーどくん」のぬりえ、大人向けの講演会等さまざまな事業が行われました。
開館35周年記念事業「本の福袋」と「りーどくんぬりえ」。大人も子どもも楽しめる企画がたくさんありました。
寄り道さんぽ 図書館とまち歩き
歴史と文化どちらもたっぷり味わえる金沢区。今回は金沢図書館近隣に点在する図書施設を訪ねてみました。ちょっと敷居が高い?専門図書館も実は一般にも公開されていて、意外な発見も!ぜひ訪ねてみてくださいね。
●神奈川県立金沢文庫 図書閲覧室 閲覧利用可
金沢文庫は、北条実時が収集した和漢の書を収蔵する建物として創設したのが始まりとされる現存する我が国最古の武家文庫です。
現在の金沢文庫は昭和5年(1930年)に県立図書館という性格も持って創立され、保管されてきた中世の資料に加え、地域資料も多く収集されてきました。戦後、神奈川県立図書館開館を受け、金沢文庫は主に中世日本の歴史・宗教・美術の展示を行う歴史博物館となり、継続して調査・研究が行われています。
平成28年(2016年)3月には、こうした調査・研究の蓄積が評価され、金沢文庫が管理する「称名寺聖教」と「金沢文庫文書」について、文化審議会が国宝指定の答申をしました。
現在の建物は平成2年(1990年)に新築され、公開の図書閲覧室が2階に設けられました。図書室は研究資料の収集・保存が目的ながら、一般にも公開されています。貸出はできませんが、開架の蔵書は約7,000冊。中世日本の歴史、宗教、美術、仏教絵画に関する本が中心でどれも実際に手に取って読むことができます。書庫の約63,000冊の資料や貴重な金沢文庫古書のマイクロフィルム複製版も閲覧可能です。
図書室だけの利用もできます。自分の興味のあることを熱心に研究するために通う一般の利用者さんもいらっしゃるそうです。
お話を聞かせてくださった図書室担当者大塚敏高さんから蔵書にまつわる様々なお話をうかがいました。
中でも、昭和8年(1933年)の図書館令によって、県立図書館として位置付けられたことで収集された、戦前の県内小図書館の運営の様子をまとめた記録など、歴史を潜り抜け保存されている資料の意義を物語っていました。
中世から戦前、戦後までさまざまな資料を収集・保存している金沢文庫の蔵書を知ることは、図書館のあり方や歴史を考えることにもつながりそうです。
神奈川県立金沢文庫
利用案内
●関東学院大学図書館本館 貸出利用可(所定の条件・手続きあり)
関東学院大学は横浜山手に1884年創設された、横浜バプテスト神学校を源流の一つとする歴史と伝統のある大学。図書館は金沢八景キャンパスの本館と室の木分館、金沢文庫キャンパスの金沢文庫館、小田原キャンパスの小田原分館の4館。蔵書数は140万冊(全館)。
金沢八景キャンバス図書館本館は1979年に新築。雑誌『建築文化』(1980年5月号)に「書物のカテドラル」(大聖堂)と紹介された荘厳な建物で、1,2階が開架、3階は閉架書庫となっています。
蔵書の特徴的なものとしては、135年前に神学校からスタートした当時から集めらてきたキリスト教関係の資料や、学院の設立に深く関わった宣教師ネイサン・ブラウンが新約聖書を初めて日本語に訳した「志無也久世無志與」(しんやくぜんしょ)などがあります。
ラーニングコモンズ(*)の整備を進めている関東学院大学図書館本館では、1階のホールを「ブラリ」と名付け、スタディエリア、ラウンジ、グループワークエリア、AVエリア、リラックスエリアの5つのエリアに分けて、柔軟性の高い利用を促しています。
右)ラウンジのテーブルとイスは学生のデザインにより製作されたもの。木の幹をイメージした作品でコンセプトは「集まる」。
星の王子さま関連コレクションや「学院史コーナー」は他では観られません。
*ラーニングコモンズ
・・・複数の学生が集まって、電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする「場」を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員によるサービスも提供する。(文部科学省HPより)
※利用登録には利用者講習を受ける必要があります。事前に連絡してからお出掛けくださいね。
関東学院大学 図書館
●横浜市立大学学術情報センター 貸出利用可(所定の条件・手続きあり)
昭和3年(1928年)に横浜市立横浜商業専門学校[Y専]として創設後、昭和24年(1949年)に横浜市立医学専門学校と併合して発足した横浜市立大学。
現在は4つのキャンパスと2つ附属病院からなる市民に馴染みの深い大学です。
図書館は金沢区内では金沢八景キャンパスの学術情報センターと福浦キャンパスの医学情報センターがあり、一般の利用も可能。図書館の蔵書数は約840,000冊(全館)。
学術情報センターでは、センター主催の所蔵資料に関する市民講座や金沢図書館との連携企画など、地域貢献を意識した活動も積極的に行っています。
学術情報センターの収集したコレクションの中には、明治以降の会社史、団体史、官庁関係史、労働運動・組合資料など約18,000冊があり、一般にも公開されています。
右)学生ボランティアによる「ライブラリスタッフ」も活躍中。
※ 試験期間や休館日等をHPの「学術情報センターカレンダー」で確認してから行くのがおすすめです。
横浜市立大学 学術情報センター
●JAMSTEC 横浜研究所 図書館 貸出利用可(所定の手続きあり)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、全国5か所の研究施設を拠点に研究船や深海探査機、スーパーコンピュータを使って海洋と地球科学の研究をしています。横浜研究所には一般に公開されている展示施設「地球情報館」があり、2階と3階に海洋と地球科学に関する専門図書館があります。一般の人が自由に利用できる2階フロアには、貸出可能な図書を約6,000冊、館内で自由に閲覧できるDVDや雑誌も所蔵しています。
さまざまな世代の方に本を通じて海や地球について知ってもらいたい、興味を持ってもらいたい、そんな思いから、専門図書館でありながら一般書のみならず、子ども向けの科学絵本や児童書も多く揃えているのが特徴です。 サイエンスコミュニケーションをめざすJAMSTECの取り組みがうかがえます。
地球情報館では毎月第3土曜日に公開セミナーやイベントを開催。子ども向けのイベントも行われています。図書館もオープンしていますので、館内にある映像展示室やグッズ売り場と合わせて一日中楽しめます。
国立研究開発法人 海洋研究開発機構 JAMSTEC 横浜研究所 図書館
利用案内
●中央水産研究所図書資料館 閲覧利用可
国立研究開発法人水産研究・教育機構は、魚や貝を安心して食べていかれるよう水産業全般について研究し、合わせて水産に携わる人材を育成する機関。金沢区にある中央水産研究所図書資料館は、研究に必要な資料の収集整理の施設ですが、一般の利用も受け入れています。
蔵書は水産に関する資料約260,000冊と古文書約250,000冊。また、所蔵の貴重資料はデジタルアーカイブでHPから観ることができます。魚好き、釣り好きの人、必見です。
右)図書資料館内に置かれた新聞。普段目にしない専門紙もいろいろ。
何と言ってもここのおすすめは「展示情報室」。魚のはく製約80点や漁業操業模型、金沢区のジオラマなどが集められています。はく製の下には調理例のサンプルもあり、美味しそうです。
毎年10月の公開日には施設全体を公開したイベントを行っています。実物の魚に触れる体験や魚の食べ比べなど楽しい催しもあるそうです。
図書資料館長の野口昌之さんによると、事前に連絡すれば少人数でも見学の対応はできる限りしてくださるそうです。「調理例のサンプルも面白いので、ぜひ観に来てください」とのことでした。
国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所図書資料館
●金沢動物園ののはな館 閲覧可能
金沢自然公園内にある「ののはな館」は、企画展やイベント、講座を行っている場所ですが、1階奥に図書コーナーがあります。動植物に関する資料を中心に蔵書数は約5,700冊。そのうち子どもの向けの本が約1,700冊です。金沢図書館から貸し出された本も置かれていて、閲覧することができます。
金沢動物園に行ったら、まず立ち寄ってみましょう。季節の昆虫や植物の情報が得られます。園内で使用できるベビーカーの貸し出しも行っています。
入館は無料。入口左手にカウンターには職員の方がいるので、何でも聞いてみましょう。
左)金沢動物園オリジナル紙芝居は学校や幼稚園などの団体に貸出もしています。
右)ゆったりとしたスペースに置かれた椅子は低めで子どもも座りやすい。
横浜市立金沢動物園ののはな館
利用案内
図書館からのメッセージ
「金沢区読書施設マップ」を持つ 石田勝行館長(右)と杉浦弘美さん
石田館長からのメッセージ
「読書文化資源の活用を推進します!」
金沢区は図書館を持つ専門施設が多いのが特徴です。読書資源というような、そうした施設と連携が図れているので、企画展も幅が広がっています。これからは更に地域で読書活動を行っている区民のグループともつながっていきたいと思います。
EDITORIAL NOTE
歴史と文化の深さを感じさせるまちの図書館の力。公共図書館から広がる図書施設への散策は歴史から科学までと想像以上に幅広いものでした。本をきっかけに街へ出ていく楽しさを堪能させていただきました。
【参考文献】
書名をクリックすると横浜市立図書館での所蔵が見られます。
『図説かなざわの歴史』 2001年 金沢区制五十周年記念事業委員会/編
『金沢の100年 六浦県から海の公園まで』 1987年 内田四方蔵
『ぶらり金沢散歩道 ―歴史・伝説・民話を歩く―』 2003年 楠山永雄
『横浜金沢魅力帳 街歩き持ち歩きガイド』 2015年 横浜市金沢区地域振興課/編
『金沢文庫本之研究』 1981年 関靖・熊原政男
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横浜市金沢図書館
利用案内
開館時間
休館日
アクセス
住所:〒236-0021 金沢区泥亀2-14-5(金沢地区センター併設)
電話:045-784-5861 FAX:045-781-2521
ホームページ: http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/chiiki/kanazawa/
取材協力/画像・資料提供_横浜市金沢図書館 /神奈川県立金沢文庫/横浜市立大学/関東学院大学
海洋研究開発機構 横浜研究所/水産研究・教育機構 中央水産研究所
金沢動物園ののはな館
取材_ 安木由美子