ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

その後、アンは車で片道三時間離れたこの劇団に入る事となった。

初めこそなれない環境に戸惑っていたアンだったがバレースクールの時に身に着けたダンス演技を自分の演技に取り入れ他の子供達の演技を格段に圧倒していた。しかし、発声に関しては持病の喘息がたまに顔を出してママの洋子はそのたびにアンを心配そうに廊下から見つめていた。

劇団には入って間も無くアンにテレビのドラマの仕事が舞い込んで来た。初めてテレビ局に車で向かうアンは落ち着いていたが、キャシーは終始興奮気味で昨晩は一睡も出来なかったと話し常にその大きな体をモジモジとさせていた。


TVstudio


テレビ局のスタジオに入り共演する俳優や女優に挨拶をしたがそれよりもアンが驚いた事はスタジオにいる関係者の多さであった。

「君がアンだね」

話しかけてきたのはアンのパパ役であるジミーであった。金髪の二枚目で特徴のないその顔はママ役のアンジェリーの引き立て役にスタッフからは見られていた。」

「アン、余り緊張しなくていいんだよ。セットに入ると光が眩しいかもしれないけど、それ以外は君のお家となんら変わりがないからリラックスして台本通りのセリフを話せば良いかならね。上手に話そうとせず普通に話せばいいから」

そう話すジミーは始めてのアンに気を使い、優しい言葉でアンをリラックスさせようとしていた。

本番が始まるとその内容はごく普通な家庭で起こる事件をコミカルに表現するホームドラマであった。アンは最初こそ台本通りの動きやセリフを話していたがジミーやアンジェリーナの演技につられるかの様にその表情やセリフは周りのスタッフが驚くばかりだった。

何度目かの収録でアンは台本のセリフとは違う言葉を口にした。

「カット!」大きな声がスタジオに響きスタッフがアンに歩み寄ってきた。

「セリフが違うね、アン!どうしたんだい?」そう台本をもってきた若いスタッフが言うと

「だってここでこんなセリフ言わないわ」

そうアンが言うと隣で聞いていたアンジェリーナが周りのスタッフに声をかけた。

「このまま、アンの思った通りのセリフで演技させたらどうかしら」

そのアンジェリーナの言葉にスタジオは一瞬静まり返ったがジミーもその意見に賛成し、その場はアンの自由演技に任せた。アンのセリフはコミカルでそのセリフはスタジオ内のスタッフさえ笑い出すほどだった。

放送が始まりその反響は高く視聴者の注目の的となった。その中でも脚光を浴びたのがアンだった。アンが多く出演する週の放送では視聴率が高くなりアンが余り出ない週の放送では視聴率が極端に下がった。そんな、アンの人気に番組の提供スポンサーがアンにCMの依頼をして来た。

飲料メーカーの新商品のCMに起用されたアンはその番組のキャラクターそのままに元気でそしてコミカルにその商品を美味しそうに飲み干した。番組の反響が高くなるにつれその飲料メーカーのドリンクの売り上げも上がり最終回近くには過去最高の視聴率を取る事となった。飲料メーカーは過去最高の売り上げを上げアンの家には飲みきれないほどの商品を送りつけてきた。


ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

カナダで生まれたアン・マッケンローはニューヨーク生まれの父、デイビスと日系二世の母、洋子との間に生まれた女の子だった。

小柄で大人しいアンは幼稚園を喘息によって休みがちで、そんなアンを心配した洋子は少しでもアンの体が丈夫になるように近くのバレースクールに通わせた。

小さなアンにはそのバレースクールがとても楽しみで、その時だけは友達とテレビアニメの話や流行のキャラクターの話など、終わりのない会話を楽しんでいた。

「アン、今度の発表会はいったい何を踊るの」

そう洋子が聞くとアンは嬉しそうに洋子の腕を取り、答えた。

「今度の発表会は皆で白鳥を踊るの、私は真ん中で・・」

まだ、バーレッスンですらまともに出来ない小さなアン達には踊ると言っても大人達には、それはお遊戯のようにしか見えなかったが小さな彼女達がプリマドンナを目指して踊るその格好は本人達だけではなく親たちのほうがよほど楽しみのようであった。

バレーも小学校を入る頃には見違える様に上達し、何度目かの発表会にはテレビ局や地元の新聞社までもが取材に来るくらいだった。

小さな町ではこの頃、アンはちょっとした有名人であった、通学で町を歩けば近所の名も見知らぬおばさんからも声をかえられた。

「アン、テレビみたわよ!今度はいつ発表会をやるんだい?」

そのたびにアンは元気よく答えた。

「まだ解らないの、だって発表会は先生が決めるから」

アンは友達にもそして町中の皆からも人気者でそして誰からも愛されていた。

そんなある日、学校から帰ると知らない中年の小さな男性とメガネをかけた大柄な女性が居間のソファーに並んで座っていた。

テーブルには飲みかけの珈琲とクッキーがおかれていて洋子と談笑をする姿はまるで長年の友達の様であった。

「アンご挨拶をなさい。」

こちらは、劇団の社長さんをなされているジョー・ロイスさんとキャシー・モーガンさんよ。洋子はアンの顔を見つめながら二人を紹介した。

「はじめましてアン、私はジョー・ロイス、隣の彼女はマネージメントを行っているキャシー」

アンは意味が解らずただ挨拶をしているだけで、向いに座っている、小さな男性とその隣のメガネをかけた大きな女性はただにこやかにアンを見るばかりであった。

「始めまして、私はアン・マッケンロー」

「始めまして」大きく頷き、挨拶を返したのは大柄な女性のキャシーだった。

「アン、こちらの二人はテレビでバレーに出ていたあなたを見て是非自分たちの劇団に迎えたいと言って下さってくれているのよ。」

洋子は嬉しそうにアンに向かって話しかけた。

「始めましてアン、私達はね、アンのバレーをテレビで見てからあなたの大ファンになってしまったの、何度かバレースクールにも伺ってあなたのバレーを見ていたのよ、気が付いてなかったかしら?」

笑顔で話すキャシーのその言葉にアンは優しさを感じた。

「そうなんだ、アン。私達はあのテレビ放映後どうしてもアンと話してみたくて何度かバレースクールに通ったりあなたのママの洋子さんとも何度かお話をさせて頂いたりしていたのだ。洋子さんが言うにはアンのタイミングを計って、と言う事になってね、それで今日こうして挨拶に来たんだよ。」

笑顔で話すこのジョー・ロイスに関してもアンはとてもやさしそうなおじさんと思えた。

「だけど、私、劇団と言っても演技なんか一度もやったことなんてないよ」

そう不安そうに話すアンをみてキャシーが優しく劇団について話始めた。


劇団


「劇団にはね、あなた位の男の子や女の子がいっぱいいるの、あなたよりもっと小さな子さえいるのよ、そんな子達がテレビドラマや映画の子役として選ばれるよう働くのが私達、そして私達のスタッフがあなたや他の子供たちの演技や発声指導をするのよ」

そう説明されてもアンにはまだよくは理解できないでいた。

「あなたなら私達の劇団ですぐに一番になれるわ、だってこんなにもキュートでチャーミングなのですもの」

そうキャシーが話すと洋子は誇らしげにアンの頬に手を当てその小さな頬を擦った。




ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

敬子はリリィが居るその場から全速で走りクーモの居る棚にむかった。

「どうしたの?」

そう聞くと振り返ったクーモの顔は涙でグシャグシャになっていた。

「本が、本が・・・」

手にしている本を敬子に差し出しがクーモの涙は止まらない。

「本?」

敬子は差し出した本を手に取りパラパラと捲るとその本には何も書かれておらずただ白いページが続くだけであった。

そこにリリィがやって来た。

「クーモ、あなたここにどれくらい居るの?ここの本の意味、本当に解っているの?」

そう馬鹿にした表情でリリィが言うと、リリィが言おうとしている事がまったく理解出来ない二人は顔を合わせてその意味を考えた。

クーモに対して投げかけたその言葉の後、リリィは沈黙を続けた。クーモは頭を抱え考え続けた。

「ハッ!」

クーモは何かに気がついたかのように顔を強張らせた。

「ようやく気がついたようね!あなたどの位この本をほったらかしにしていたの?」

そう言われるとクーモは後悔の念から下唇を力いっぱいかみしめて悔しがった。

相変わらず敬子にはこの二人のやり取りの意味がまるっきり理解出来ないままだった。そんな敬子の様子をみてリリィが敬子に向かって説明を始めた。

「ここの本はね、人の人生その物なの当然次の世のね!だけど棚の中で何時までもそのままの状態では残ってないのよ!人は人に影響されて生きて行く、父がいて母がいて兄弟がいて友人がいて多くの人間の影響を受けて生きているのだからここにある本は生きているのと何ら変わりがないの。時間が経ち過ぎればその人生は終焉を向かえまた新しい人生のストーリーが始まるわ、そうなれば一度この本は真っ白になりまた新しい話しが刻まれるって事なのよ!だけどね、それは本が棚の中に入っていてこそなの、本は棚の中で新しい人生に向けて休息を取りながら少しずつ刻まれるのよ。

そんな事、長い時間ここにいたあんたは当然知っていたわよね、クーモ!」

その言葉にクーモは下を向き何も答えられないでいた。そんなクーモを見て敬子がリリィに聞き返した。

「さっきクーモは本の数が少ないと言っていたけどそこにある本以外の本はどうしたの?」

そう敬子から言われるとリリィの口元は緩み敬子に向かって言い放った。

「それはあなた方が探してきた私の本が真実の一冊だった場合に返してあげ様と思い別にしといたのよ」

「別に?ではその本にはまだストーリーが刻まれていたの?」

「そのようね」

敬子はゆっくりクーモの肩に手を掛け涙でいっぱいのその瞳に向かってやさしく囁いた。

「良かったね、クーモ!」

敬子の囁きはとてもやさしかった。

クーモの心にしみ込んだその言葉で今まで瞳から溢れていた悔しさや愚かさといった物とは違う涙が溢れて止まらなかった。

「ありがとう、ケイコ」

 

「さあ、ケイコその手にもっている私の一冊を頂けるかしら・・」

そうリリィが言うと敬子は手に持っていた本をリリィに向けて差し出した。リリィがその本を受け取ろうと本に手をかけたが敬子はその本から手を離さなかった。

「何をなさるの?」

驚いた表情でリリィが敬子に叫んだ。

「リリィ!これだけは約束して、もしこの本があなたにとっての一冊と認めたらその時はクーモの本をちゃんと返すと・・」

そう敬子がリリィに向かって言うとリリィは当然といった目つきで敬子に向かって言い放った。

「解っているわ!でも、もしこの一冊が私の希望通りの一冊でなかった場合クーモの本は永遠に出てこないと思って」

そうリリィから聞くと敬子は力いっぱい握った手から力を抜きその本をリリィに渡した。そしてその場から一歩、二歩と後退するリリィはその本を握り締めて敬子に向かって言った。

「私はこれからこの本をゆっくりと読ませて頂くわ、それまであなた方はここで待ってなさい。」

「待つってどのくらい・・」

「さあ?私がこの本を気に入ればしばし、もし気に入らなければ私は戻らずそしてクーモの本も永遠に戻らないだけ・・」

そう言うとリリィは高笑いをしながら二人の前から走り去って行った。

クーモは敬子の顔を心配そうに覗き込んだ。

「良いのかい、このままリリィを行かせても」

不安そうな顔でクーモが敬子に聞くと

「大丈夫、あの本以外にリリィが次の世に行ける本は無いわ」

そう敬子が言い切ると静まり返ったその場で二人はただリリィを待つしかなかった。

本棚を走りながら何度も後ろを振り向きリリィは後を追いかけて来ない事を確認した。

(いったいあの二人はどんな本を見つけて来たんだろう)

リリィの胸の中は長年の恋人に会うような初々しく、時めきさえ感じていた。リリィはケイコとクーモと出会った場所より西へ向かい幾つもの本棚を通り過ぎてその先を目指した。やがてその先にはこの図書館に入り口近くにあった様な大きなテーブルと八脚の椅子が置かれていた。しかしリリィはそのテーブルを通り過ぎその先の本棚へ足を向けた。向かった本棚の端には五冊の本が置かれていた。その本をリリィが確認すると、もと来た道へ戻り先ほどのテーブルにある一つの椅子に腰掛けた。

テーブルには二人が探し出した本を丁寧に置きリリィは大きなため息を一つ付いた。

「ハア」

右手でそっと開いたそのページにはこれから始まるリリィの人生がページいっぱいに書かれていた。その一文字、一文字を目で追うリリィの左手は少し震えている様であった。