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カナダで生まれたアン・マッケンローはニューヨーク生まれの父、デイビスと日系二世の母、洋子との間に生まれた女の子だった。
小柄で大人しいアンは幼稚園を喘息によって休みがちで、そんなアンを心配した洋子は少しでもアンの体が丈夫になるように近くのバレースクールに通わせた。
小さなアンにはそのバレースクールがとても楽しみで、その時だけは友達とテレビアニメの話や流行のキャラクターの話など、終わりのない会話を楽しんでいた。
「アン、今度の発表会はいったい何を踊るの」
そう洋子が聞くとアンは嬉しそうに洋子の腕を取り、答えた。
「今度の発表会は皆で白鳥を踊るの、私は真ん中で・・」
まだ、バーレッスンですらまともに出来ない小さなアン達には踊ると言っても大人達には、それはお遊戯のようにしか見えなかったが小さな彼女達がプリマドンナを目指して踊るその格好は本人達だけではなく親たちのほうがよほど楽しみのようであった。
バレーも小学校を入る頃には見違える様に上達し、何度目かの発表会にはテレビ局や地元の新聞社までもが取材に来るくらいだった。
小さな町ではこの頃、アンはちょっとした有名人であった、通学で町を歩けば近所の名も見知らぬおばさんからも声をかえられた。
「アン、テレビみたわよ!今度はいつ発表会をやるんだい?」
そのたびにアンは元気よく答えた。
「まだ解らないの、だって発表会は先生が決めるから」
アンは友達にもそして町中の皆からも人気者でそして誰からも愛されていた。
そんなある日、学校から帰ると知らない中年の小さな男性とメガネをかけた大柄な女性が居間のソファーに並んで座っていた。
テーブルには飲みかけの珈琲とクッキーがおかれていて洋子と談笑をする姿はまるで長年の友達の様であった。
「アンご挨拶をなさい。」
こちらは、劇団の社長さんをなされているジョー・ロイスさんとキャシー・モーガンさんよ。洋子はアンの顔を見つめながら二人を紹介した。
「はじめましてアン、私はジョー・ロイス、隣の彼女はマネージメントを行っているキャシー」
アンは意味が解らずただ挨拶をしているだけで、向いに座っている、小さな男性とその隣のメガネをかけた大きな女性はただにこやかにアンを見るばかりであった。
「始めまして、私はアン・マッケンロー」
「始めまして」大きく頷き、挨拶を返したのは大柄な女性のキャシーだった。
「アン、こちらの二人はテレビでバレーに出ていたあなたを見て是非自分たちの劇団に迎えたいと言って下さってくれているのよ。」
洋子は嬉しそうにアンに向かって話しかけた。
「始めましてアン、私達はね、アンのバレーをテレビで見てからあなたの大ファンになってしまったの、何度かバレースクールにも伺ってあなたのバレーを見ていたのよ、気が付いてなかったかしら?」
笑顔で話すキャシーのその言葉にアンは優しさを感じた。
「そうなんだ、アン。私達はあのテレビ放映後どうしてもアンと話してみたくて何度かバレースクールに通ったりあなたのママの洋子さんとも何度かお話をさせて頂いたりしていたのだ。洋子さんが言うにはアンのタイミングを計って、と言う事になってね、それで今日こうして挨拶に来たんだよ。」
笑顔で話すこのジョー・ロイスに関してもアンはとてもやさしそうなおじさんと思えた。
「だけど、私、劇団と言っても演技なんか一度もやったことなんてないよ」
そう不安そうに話すアンをみてキャシーが優しく劇団について話始めた。
「劇団にはね、あなた位の男の子や女の子がいっぱいいるの、あなたよりもっと小さな子さえいるのよ、そんな子達がテレビドラマや映画の子役として選ばれるよう働くのが私達、そして私達のスタッフがあなたや他の子供たちの演技や発声指導をするのよ」
そう説明されてもアンにはまだよくは理解できないでいた。
「あなたなら私達の劇団ですぐに一番になれるわ、だってこんなにもキュートでチャーミングなのですもの」
そうキャシーが話すと洋子は誇らしげにアンの頬に手を当てその小さな頬を擦った。
