「今日は裕歌ちゃんの日だって分かっているんですけど、今を逃すとたぶんずっと言えない気がするので…。」
そう陽子さんが切り出すと、さっきまでの優しい空気が一変、張り詰めたような空気になった。
視線が陽子さんに集まる。
「裕歌ちゃん以外のスタッフさんは勘づいている人がほとんどだと思うんですけど、私、本当は製作がメインの社員じゃないんです。
私は大阪で小さい子たちのスケジュール管理をしています。制作の現場は、入社したての頃に何度かお手伝いをさせてもらった以来で。だから、社長直々にこの制作の話をいただいた時に一度お断りさせていただいたんです。」
「その時に俺が言ったんだ。
『あなたの経験が役に立つ時が来た。あなたと同じ経験を10年もしている女の子が、今度制作に来ることになった。彼女の支えになってほしい。』って。」
えっ、と思わず陽子さんの顔を見上げた。
同じ経験って・・・?
「学生時代に、私も裕歌ちゃんと同じ心因性失声症という病気にかかっていました。私は1年くらいで戻ったんですけど。
そういうことならって、制作に参加させてもらったんです。」
何がなんだか分からなくなった。
陽子さんも私と同じ病気だった!?
あんなに明るい人なのに・・・
そう言えば、今まで会った誰よりも、私の病気に理解があった。
学生時代に、ってことはきっと、私と同じように・・・。
「もう、裕歌ちゃん、そんな顔しないでよ。
裕歌ちゃんも分かってるように、その頃はいろいろあったけど、今となっては嫌な思い出じゃないし、こんな経験が役に立つ仕事なんてきっとないよ。
いつもしている仕事と全く違って慣れないことも多いけど、楽しいよ。」
そう言って、陽子さんは私をギュッと抱きしめてくれた。
さあ、と言って陽子さんは体を離した。
「私の話はこれでみんなおしまい。
これからは裕歌ちゃんの時間だよ。言っておくけど、引いた質問には全て答えてもらうからね。もちろん、ノーコメントなんていう答えは受け付けないから。」
スカイさんも夢人も他のスタッフさんも「ノーコメントはダメだよねー」と言っている。
私はペンを執ってノートに書いた。
陽子さんは私の味方じゃないんですか?
「確かに味方だよ。
今、ここで裕歌ちゃんが自分のこと全部正直に言わないと、この先もっと辛くなるだけだから、今日は心を鬼にします!」
何を言ってもダメだと諦めた。
陽子さんたちの楽しみにしている顔を見ていると、反論する気が無くなった。
それから始まった私への質問攻め(この表現が最も正しい。次から次へ答えさせられた。)は夕方まで続いた。
それでもスタッフさんたちは物足りなかった様子だったが、スカイさんが止めた。
今日はとても楽しい1日だった。自分のことをたくさん話せて、さらにスタッフさんたちと仲良くなれた。
あと1カ月もない東京でのアルバム制作、きっと乗り越えなければならない壁はたくさんあるだろうけれど、絶対に乗り越えられる。