はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、私を私たらしめた守り人シリーズの中から、「虚空の旅人」についてです。第一巻は「精霊の守り人」になります。それではいざ、船に乗って潮風の服サンガルの地へ、向かいましょう。
「虚空の旅人」上橋菜穂子(偕成社)
新ヨゴ皇国の南に位置するサンガル王国で、新王即位の祝いの式典が行われた。そこへ賓客として赴いた皇太子チャグムと、その相談役シュガ。王子であるタルサンを、サンガル王国転覆の陰謀から救うため、彼らが奔走する。
最終巻までのタルシュ帝国と北の大陸の国々との争い、という大きなテーマが動き始めるのがこの巻だ。精悍な王子であり、同い年のタルサンと触れあう中で、チャグムもまた自分の芯を見つめ直す。また、シュガとチャグムの絆も見逃せないだろう。タルシュ帝国の陰謀に敢然と立ち向かう二人の姿には、胸が熱くなった。
今回、特に印象に残ったのはタルサンとチャグムだった。二人は、根本的なところで、よく似ている。身分の高い王族に生まれながら、庶民として生きる人々と密接な関わりを持ち、それでいながら、そのような庶民の命を切り捨てる為政者にならなくてはいけない、という危うさを内包している点だ。二人とも、わずか14歳でありながら、周囲の信頼を勝ち得ている。数え上げたらきりがないが、異なる点もあるだろう。タルサンは兵を率いることに誇りを覚え、チャグムは痛みを覚える。カルナン王子の暗殺を防いだときの、チャグムの苦悩には、私も胸が痛かった。
そして、チャグムの真っ直ぐさ、清廉さは、政治とは冷酷なものだ、という印象を抱いている私にとっては、希望の光にも見えた。だからこそ、シュガもチャグムに惹かれるのだと思う。そういう意味では、読者の立場はシュガに最も近いのかもしれない。この二人の絆の固さは、
忠義などではなく、もっと別のものだった
と言うチャグムの言葉の通り、主従関係でありながらそれに留まらない二人の関係は、本当に美しいものだ。こういう関係になれる人が、私にもいたら、と望んでいる。
ところで、サンガルにまでバルサとチャグムの話が伝わっていたのは、不快そうなチャグムには申し訳ないが微笑んでしまった。ユグノの健闘である。直接登場するのは「夢の守り人」だけだった気がするが、ここそこでユグノが広めた物語が伝わっているのがおかしい。
大好きな守り人シリーズも、ここからどんどん奔流を増して、海を越えタルシュまでも飲み込んでいく。何度も読んでいるとはいえ、楽しみだ。
おわりに
ということで、「虚空の旅人」についてでした。次回は未定ですが、またお越しくださったら嬉しいです。最後までご覧くださりありがとうございました!