はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ついに、私の原点である上橋菜穂子さんの守り人シリーズについてです。今の私の読書の傾向は、全てこの「精霊の守り人」から始まったと言っても過言ではありません。それでは、世界を揺るがす壮大なファンタジーが幕を開けます。
「精霊の守り人」上橋菜穂子(偕成社)
いつも通りあらすじから書き始めようとしたのだけれど、どんなに言葉をひねり出しても、この物語を表現しきることができない。稚拙な文章で、この作品について語るのもはばかられるくらい、私の心の中で神聖な輝きを放っている。といっても、全く説明しないわけにもいかないので、足りない言葉を一生懸命つくす。
腕の立つ女用心棒であるバルサは、ある日皇子のチャグムが暗殺されようとして橋を渡る牛車から川へと投げ出されたのを救う。礼と称して招かれた宮で、バルサはチャグムを彼の母から託され、帝の追手から逃れるための逃避行を始めた。しかし、チャグムの命を付け狙うものは、追手だけではなかった……。雲を生む精霊の卵を宿したチャグムと、戦いに明け暮れる人生を送ってきたバルサが出会い、大長編の序章が幕を開ける。
初めて出会ってから、もう両手両足で数えても収まらないくらい読み返している守り人シリーズであるが、それでも心を揺さぶられずにはいられない。
大人は言う、大切なのは富や権力ではなく、その人の中身だ、と。しかし、実際にこの目で世の中を見つめるようになると、実際に世界を動かしているのは、前者であることを発見してしまう。無垢な子どもが信じている理想の世界はそこになく、ただ厳しい現実が前に立ちはだかるのだ。
大人は口だけ、と思ってしまっても仕方がない。私だって、時折そんな世界に対して背を向けたくなるときもある。周りにいる人々の冷たさがやけに際だって見えて、心に巣くう虚しい穴をのぞき込む羽目になるのだ。
けれど、そんなときに深い穴の底から引きずり上げてくれるのが、上橋菜穂子さんをはじめとした本なのだ。
皇子チャグムの宮での暮らしは、国の中でも栄華を極めている。そのことは、バルサが宮に招かれたときの、たった一晩の描写でも手に取るように分かるだろう。まさに、新ヨゴ皇国の富と権力の象徴がそこにあった。
しかし、否応なしにそんな暮らしから引きずり出されたはずのチャグムは、バルサやタンダ、トロガイ、トーヤ、サヤ、と言った、皇族であれば下々の者、とひとくくりにしてしまうような人々と共に日々を過ごした。彼は、物語の最後で、バルサたちとの暮らしを惜しみながら、それでも宮に帰る道を選ぶ。バルサたちとの暮らしが、いかに彼にとって暖かいものであったかが、分かった。「精霊の守り人」に限らず、バルサたちとの暮らしを懐かしむチャグムの姿は、シリーズの中に度々登場する。富や権力が全てではなく、むしろ心の温かみの大切さを、教えてくれた。
ところで、チャグムの年齢についてである。今回初めて気づいたのだが、年の数え方がどうも数え年のようだ。ということは、チャグムは満年齢で数えると一歳若いことになる。ただでさえしっかりしているというのに、まして思っているより一歳も若いとは、彼の年齢に似合わぬ気丈さに、感心させられた。
守り人シリーズなど、何度も再読している作品は、読む度に得るものが異なる。読んでいるときの私の心の状態が手に取るように伝わってくるというものだ。主人公たちの年齢に近づき、追い越して行く。そのことが、寂しくて仕方ないのが、唯一変わらない。
おわりに
ということで、まだまだ語りたいことがたくさんあるのですが、これからしばらく守り人シリーズについてになることと思います。疲れていると、読み慣れた作家の作品に手を伸ばしたくなるものです。
それでは、最後までご覧くださりありがとうございました! 次回「闇の守り人」もお楽しみに。