はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、「精霊の守り人」に始まる守り人シリーズの第3巻、「夢の守り人」の再読です。私の原点となったこのシリーズの魅力を、少しでも感じていただけたら幸いです。それでは、新ヨゴ皇国に現れた奇病で、眠り続ける人を救うため奔走するタンダたちの姿を追いかけましょう。いざ、新ヨゴ皇国へ!
「夢の守り人」上橋菜穂子(偕成社)
兄から頼まれて、起こそうとしても眠り続ける姪のカヤを診たタンダは、彼女から魂が抜けていることに気づく。決まり切った一生を送ることに憂いを感じていたカヤの姿を思い出し、タンダが選んだのは危険を承知で、カヤの魂が引きずられた異世界〈花〉へ向かうことだった……。
バルサのような派手な立ち回りこそないけれど、タンダもバルサに負けず、いやそれ以上に人のことを思いやっていることが分かる巻だ。人のために命を懸けられる二人の姿には、憧れを抱く。普段は憎まれ口を叩くばかりのトロガイも、この巻ではタンダのこと、そして自分が守る村人たちのことを大切に思っていることが伝わってきた。バルサやタンダのように、そのことが表面から透けて見えるのではなく、あくまでも顔をしかめながら、嫌々やっているように見えるトロガイも、私は大好きだ。表面上は眉を寄せ、散々に言い散らしながらも、彼女には彼女なりの使命感があるのだと思うと、心が温まる。
もっとも、使命感などといった飾り立てた言葉は、トロガイはおろか、守り人シリーズの登場人物には似合わないかもしれない。彼らが持つのは、もっと根源的な何かだとは思うのだが、私のつたない語彙はぴったりの言葉を探し出してはくれず、歯がゆいばかりだ。
そんな平民の中で生きるバルサたちとは、かけ離れた世界で生活を送るのがチャグムとシュガだろう。一時は交わったチャグムたちとバルサたちの生は、「精霊の守り人」を終えてまた離れていくかに見えた。だが、どんなに隔てられていても、お互いを純粋に思いやる気持ちの大きさには、毎回圧倒される。とにかく彼らの姿が愛おしくて仕方がなかった。
上橋さんの作品は、「獣の奏者」もそうだが、登場人物たちの心情に名前をつけることが難しい。あまりにも繊細に、上手に書かれているがゆえに、ぽんと既存の名前をつけてしまうことが、野暮に感じられて仕方がないのだ。正直こうやってブログの記事を書くのも、自分のぞんざいな文章に絶望したくなる。これで手にとってくださる方がいれば、本当に幸いだ。魅力の一端も、伝えられた気がしない。とにかく、私はこの作品が大好きなのである。
壮大でありながら、繊細な登場人物の心情も書き綴るこの大長編は、初めて出会ったときからも何年も過ぎている私の心の中で、未だに特別な輝きを放ち続けている。そしてこのあともずっと、不動の座を占め続けるだろう、という予感ができた。
おわりに
ということで、「夢の守り人」についてでした。次回は、サトクリフの「イルカの家」についてになると思います。守り人の続きもそのうちに。次巻はいよいよ「虚空の旅人」ですね!
それでは、またお会いしましょう。最後までご覧くださりありがとうございました。