はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、「氷石」を紹介した前回に続き、久保田香里さんの作品「駅鈴(はゆまのすず)」についてになりました。「氷石」の数年後、今度は奈良時代の通信を担った駅家を舞台に、駅子を目指す少女、小里の物語が始まります。

 

「駅鈴(はゆまのすず)」久保田香里(くもん出版)

 女に生まれながら、馬を扱って朝廷などの情報伝達を担う駅子を目指す小里。周囲の反対にあいながらも、大好きな馬のため、小里は駅子に憧れることをやめられない。役人ではなくとも、政に欠かせなかった存在、駅家を、馬に憧れた少女、小里の目から描く。

 

 まず、解説でも言及されているが、やはり道というものは、どの国、どの時代においても重要なのだな、と改めて思わされた。交通網の発達した国家といえば、まず第1に思い浮かぶのはローマ帝国だろう。「すべての道はローマに通ず」と称されるほど、道の整備を欠かさなかった。しかし、ローマ帝国に限らず、情報の伝達のために、早く通れる道を敷くことはどんな国家にとっても重要なのだ。

 

 それは日本においても変わらない。各所に設置された駅家には、重要な情報を携えた飛駅が駆け込んでくる。正式な使いであることを示す駅鈴(はゆまのすず)を鳴らし、駅家に駆け込んでくる飛駅の描写は、まるで私も小里の隣で道を見張っているかのような気分にさせてくれた。

 

 しかし、小里はあっさりと駅子にはなれない。女性であるということに限らず、小里の前には様々な災難が降りかかってくる。ここでは詳しくは書かないが、一難去ってまた一難、と気もそぞろで、一気読みしてしまった。一度は駅子になる望みを捨てようとした小里だったが、馬が好き、というその一心は変わらず持ち続ける。大好きなものがあるということは、人をこんなにまで強くしてくれるのか、と目を見張った。

 

 おそらく「氷石」との関連もあったのだろうが、あまりにも小里の数奇な運命にのめり込みすぎて、そこまで気が回らなかったのが残念なところだ。今回は図書館で借りてきたので、次はどこかで入手して、「氷石」と併せて再読したい。

 

 ところで、なんとなくこの物語を読んでいて思い出したのは「獣の奏者」のイアルと、守り人シリーズのバルサだった。イアルは、「外伝刹那」で夜、馬に乗って駆ける場面がある。「獣の奏者」は架空の世界の物語だが、やはり自動車も電気もない時代、駅という存在は情報伝達に欠かせないのだと、改めて認識した。それから、バルサは小里と似たものを感じた。女である不利を抱えながらも、男の世界で顔を上げて生きていく芯の強さが、共通している。二人とも、性別を言い訳にせず、真っ直ぐに挑んでいく姿勢で、勇気づけてくれる存在だ。

 

 奈良時代といえばもともと文献が少ない上に、まして役人でもない駅家を舞台に、ここまでくっきりと情景、人々の声が浮かび上がってくるとは、思ってもいなかった。小里の成長物語としてだけでなく、そういった周囲の様子も含め、本当に楽しめる。一層他の久保田さんの作品を読みたくなった。

 

おわりに

 ということで、「駅鈴(はゆまのすず)」についてでした。次回は、小川英子さんの「王の祭り」についてです。児童書が続いていますが、本当にどれも魅力のある作品ばかりなので、ぜひ手にとってみてください。それでは、最後までご覧くださりありがとうございました!