はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、上橋菜穂子さんの「獣の奏者」の1巻についてです。何度も読み返している作品なので、感想というより考察じみた感じのものになってしまいますが、どうぞご覧ください。
それでは、天を舞う王獣、地を駆ける闘蛇・・・・・その中で、ひたむきに生きものの謎を追う少女の歩む道を追いかけてみましょう。
「獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編」上橋菜穂子(講談社文庫)
大公領の、闘蛇を育てる闘蛇村で、国々を放浪する〈霧の民〉の娘として育ったエリン。父は小さいころになくなり、闘蛇の医術師として生活する母ソヨンと、二人で穏やかな生活を送っていた。しかし、闘蛇の突然死により、ソヨンは処刑され、それを救おうとしたエリンは、蜂飼いのジョウンのおかげで九死に一生を得る。ジョウンと暮らす、エリンの新たな日々が始まった。
本当の賢さとは何か、を教えてくれた作品だ。エリンは、自分の知識を可能な限り駆使して、疑問に思った蜂の生態を考え、自分なりの答えを出す。誰も知らないことをたどり着くためには、漫然と知識を覚えても意味がないのだ、ということを聡明なエリンの姿を通して感じる。
ところで、「守り人」シリーズに、スリナァという少女が登場する。彼女もまた家族から引き離され、孤独の中で生きることを強いられた。エリンを見ていると、スリナァにも共通する、孤独でも、人にむやみにすがらず、凜として前を向く姿勢が感じられる。本当の強さとは、そこにあるのかもしれない。上橋さんの作品に出てくる人々は、誰しもがそんな強さを持っている気がする。そんな彼らの姿に、どんなときも勇気を与えられてきた。
また、カショ山から眺める王獣の親子の姿など、上橋さんの書く自然の偉大さ、美しさには毎回息を飲まずにはいられない。朝日に夕日に、光を反射して輝く王獣の姿は、見たこともないのに心の中に焼き付いている。架空の世界であるはずなのに、自然の神秘を感じさせてくれる作品だ。
そして、今回初めて気づいたのが、イアルとエリンの年齢差だ。勝手に同い年ぐらいだと思っていたのだが、計算してみたらこの1巻の時点で、イアルは20歳くらいで、14歳のエリンとは6歳差ある。これには少し驚いた。でも、イアルの落ち着きぶりをみるに、言われてみれば確かにそれくらいだと納得する年齢差でもある。
それから、印象的だったのがユーヤンの言葉だ。
「違うところがあったら、気になるのが人ってもんやん。
わたしはなぁ、無視するんじゃなくて、その違いを、勝手に悪い意味にとるような、くだらんまねはせんって、はっきり伝えることのほうがずっと大事だと思うん」
殺伐した最近の情勢の中で、これほど響く言葉もないだろう。エリンでなくとも、感動するに違いない。自らの姿勢を省みて、私がユーヤンのようにあれるかどうかを、問うことを忘れたくないと思った。
生きものの神秘を備えた王獣と闘蛇、彼らに魅入られたエリンの足跡を、今回もたどっていきたい。
おわりに
というわけで、「獣の奏者」の1巻でした。次回も引き続き「獣の奏者」の続きを読んでいきます。お楽しみに! それでは、またお会いしましょう。最後までご覧くださり、ありがとうございました。