はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、サトクリフの「女王エリザベスと寵臣ウォルター・ローリー」についてです。舞台は16世紀から17世紀にかけて、エリザベス一世の支配するイギリス。ウォルター・ローリーの妻であるベスの視点から、彼の生涯が描かれます。
「女王エリザベスと寵臣ウォルター・ローリー」ローズマリー・サトクリフ(原書房)
新天地に焦がれ、夢を追ったウォルター・ローリー。幼い日の出会いから、彼のことを心に留めていたベスは、それから十年以上が過ぎたのち、再び彼と心を通わせる。時代を牽引したウォルター・ローリーは、いったいどのような日々を送ったのか。
ウォルター・ローリーに関しては、同作者の「白馬の騎士」でもちらりと名前が出ており、以前から気になっていたので、こうして読むことができて嬉しかった。歴史はひとつながりである、ということを実感する。
まず感嘆したのは、ベスのローリーへの愛の大きさだった。新天地への航海の魅力に全てを傾けた夫に対し、ベスはどこまでも寛容に接する。相手を真に思いやる気持ちがなくてはできないことだ。束縛でもなく、かといってどうでもいい、と見切っているのでもない、本当の愛情の姿がまざまざと紙面から立ち上がってくるような気がした。ローリーもまた、そんな自分とベスを分かっているのだろう。
それにしても、サトクリフの書く、歴史の中に生きた人々の姿は、きめ細かい心情や、五感で感じられそうな風景の描写によって、単に美化して英雄として祭り上げるよりも、一層美しく感じられる。決して欠点を隠さず、等身大の人間を書き上げることによってのみ、伝わってくる温かさといったものが、サトクリフの作品からはあふれているのだ。
主人公のベスとローリーの二人はもちろんだが、あえて他に印象に残った人物として名前を挙げるなら、ロビン・セシルだろう。なんとなく彼の姿には「銀河英雄伝説」のオーベルシュタインを思い出してしまったが、知っている方にしか分からないことは棚に上げておく。とにかく、彼から伝わってくる物悲しさのようなものには、心を揺すぶられた。ローリーのように、誰もが惹きつけられ、それゆえに妬まずにはいられない、そんな脚光を浴びているわけではない。
だが、幼いころのあどけない彼が、どんどん無慈悲になっていくようすには、心が痛んだ。妻を亡くしたことによって、それが一層加速した、というのが、また同情心をかき立てられる。ローリーの判決が決定したときに、セシルが示した反応には、自分でも驚くほど心をつかまれてしまった。
歴史の中に生きた人々が、まるで隣にいるかのように、立ち現れてくるサトクリフの文章。今作も、存分に味わえた。
おわりに
ということで、「女王エリザベスと寵臣ウォルター・ローリー」についてでした。誰も彼も、等身大だからこそ魅力的なサトクリフの作品。ぜひご一読ください。
それでは、最後までご覧くださりありがとうございました。次回もお楽しみに!