はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリ・サトクリフの「白馬の騎士 愛と戦いのイギリス革命」についてです。ローマ・ブリテン4部作からも時代は遠く隔たり、清教徒革命を舞台に、議会軍の司令官として活躍したトマス・フェアファックスとその妻アンの間に紡がれた愛の軌跡をたどりましょう。

 

「白馬の騎士 愛と戦いのイギリス革命」ローズマリ・サトクリフ(原書房)

 時代は清教徒革命。王党派と議会派に分裂したイギリスは、激しい内乱に陥る。アンは、議会側の司令官として騎馬隊を率いる夫、トマス・フェアファックスのあとを追い、転戦を重ねた。

 

 毎度のごとく、美しいイギリスの情景描写に、迫力に満ちた戦闘場面、愛情に友情と、魅力に事欠かない作品だった。トマスを愛するアンの大きな愛情も、トマスと彼の従弟であるウィリアムの友情も、羨望を持たずにはいられない、強く純粋なもので、感動した。素直に彼らのような友を得たい、それにふさわしい人間になりたい、という願いが芽生える。一時たりとも留まらず、目まぐるしく変転する情勢の中で、アンたちと一喜一憂し、戦場にある夫や友の安否が気がかりで仕方なかった。

 

 惜しむらくは、ただ一つ。私がサトクリフの作品を読みすぎたせいで、誰が死ぬのかがだいたい分かってしまったことである。なんとなく見たことのあるような感じで、その人が戦場に出る度気が気ではなかったのだが、思った通りになってしまった。たまったものではない。予感が当たったとはいえ、全く嬉しくなかった。こういう犠牲も戦争にはつきものだとはいえ、悲しくて仕方がない。まして、彼を失った登場人物たちの悲哀は、その描写が生々しいだけに、完全に同調してしまった。

 

 さて、サトクリフといえば、私の中では上橋菜穂子さんと荻原規子さんの名前がぽんと飛び出してくる。上橋さんがエッセイの中で、お二人ともサトクリフが好きだということで意気投合した、とおっしゃっていたからだ。そのお二人の作品の中でも、荻原さんの「白鳥異伝」をこの「白馬の騎士」を読んで思い出した。

 

 というのも、熱烈にトマスを恋い慕うアンの姿が、「白鳥異伝」の主人公である遠子に重なったからだ。小俱那を思う遠子の気持ちは、アンに非常に近いものがあるように感じた。とすれば、勾玉3部作は、ローマ・ブリテン4部作の日本版と言っても良いのかもしれない、と思ったりもする。ちなみに白い動物が両方ともタイトルに入っていることには、今書きながら気づいた。

 

 

 そして、サトクリフを一通り読めば、イギリス史がおさえられるような気がしてきた。もちろん、穴もあるが、こうやってサトクリフを読んでいくことで、多少は頭に入ってきていることだろう。歴史小説というものは、そのように歴史を知るきっかけとしても、よいものだと思う。それから、物語の中に再三登場する「ドン・キホーテ」も読みたくなった。現代からどんどん遠ざかっていく古典に、手を伸ばすきっかけを作るというのも、今の作家に求められている役割の一部なのかもしれない。

 

おわりに

 ということで、サトクリフの「白馬の騎士」についてでした。やっぱりサトクリフは外れないですね。

 

 さて次回は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ダークホルムの闇の君」についてになります。どうぞお楽しみに。それではまたお会いしましょう。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!