はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリ・サトクリフ作、「第九軍団のワシ」のご紹介をしていきます。北方の厳しい自然の中で、培われていく二人の友情に、心を動かされずにはいられません。サトクリフの筆による、古代ローマ帝国のイギリスへ、旅を始めましょう。
「第九軍団のワシ」ローズマリ・サトクリフ(岩波少年文庫)
闘技場で戦っていた剣闘士、エスカと、負傷によって軍人としての出世の道を絶たれたマーカス。エスカを奴隷として買ったマーカスは、友人である彼を選ぶ。そして、厳しい自然の中、北方イギリスへ、父の軍団の象徴であった〈ワシ〉を求めて、エスカと旅に出る。
身分の差、人種の差、そういうものが生む亀裂を踏み越えて、二人が固い友情で結ばれていく様子は、感動的だ。相手を、相手の属する集団で判断し、嫌うこと、遠ざけることは簡単である。その溝を越え、集団の一人ではなく、一人の人間として見ることは、難しい。しかし、そうした努力で得た友情は、時としてもともと同じ集団に属していた人とのそれよりも、はるかに固い結束となる。そんなことを教えてくれる物語だ。
本当は、あまりこの本について書きたくない。というのは、上橋菜穂子さんのエッセイでこの本について語られていることに、到底及ぶ気がしないし、私の感想を全てよく表してくれている、と感じるからだ。
だが、私にしか書けないことが一つだけある。だから、それをこれから書こう。
サトクリフに初めて触れたのは、塩野七生さんの「ローマ人の物語」全43巻を読む前だった。そして「ローマ人の物語」を読んで得た歴史の知識に、改めてサトクリフを読んだことによって、魂が吹き込まれたような、そんな感触を抱いている。
どう表現すればいいのか。塩野さんの本は、本当に面白くて、夢中になって読んだが、あくまでそれは歴史として、だった。だが、サトクリフを読むと、その歴史の中に生きた人々の息づかいが感じられるような気がするのだ。歴史に、実感が伴ったといえばよいのだろうか。その中に生きた無数の人々の存在が、感じられるような気がした。
そのためか、初めて読んだときよりも、今回のほうがより楽しめたと思う。こういう風に感じる本は少ない。たいていの本は、再読するにつれ、楽しむ対象から、興味の対象へ変わっていく。だが、サトクリフは、ひと味違う感覚を私に提供してくれた。
おわりに
というわけで、急ぎ足でしたが「第九軍団のワシ」についてでした。ローマ・ブリテン四部作、これから読んでいきたいと思います。最後までご覧いただき、ありがとうございました!