はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続きサトクリフの、「闇の女王にささげる歌」という作品についてです。ローマ帝国の暴政に叛旗を翻したイケニ族の女王、ブーディカの生涯を、彼女つきの竪琴弾きが綴ります。

 

「闇の女王にささげる歌」ローズマリー・サトクリフ(評論社)

 おてんばな世継ぎの姫だったブーディカは、イケニ族の女王となる。クラウディウス帝の治政下で、ローマ帝国の傘下に入ったケルト人だったが、ネロ帝に帝位が受け継がれると、その暴虐にしびれを切らした。叛旗を翻したブーディカたちケルト人と、ローマ人たちの戦いが幕を開けた。

 

 さあ楽しみだ、今回も古代のブリテン島へいざ出発! と意気揚々とページを開けた瞬間のさし絵がこれである。

 「ケルトの白馬」を読んだ方であれば、なにがしかの反応を示さずにはいられないだろう。寝っ転がって読んでいたら足をばたつかせ、座って読んでいれば小さく悲鳴を上げるかもしれない。

 

「ルブリン!!!」

 

 全く、この一言につきる。ぜひ、この「闇の女王にささげる歌」は「ケルトの白馬」を読んでから手に取っていただきたい。このさし絵以外にも、イケニ族の女王ということは、ルブリンの妹であるテルリの子孫であるわけで、同じ習慣があることが分かる。ルブリンが必死でつないだ一族が、続いているのだ。これで感動せずにいられようか。全く初っ端から泣かせてくる。

 

 

 そして、今回も森の空気、迫真の戦場場面、竪琴の響きと、文章が隅々まで五感に訴えてくる物語だった。本の中に広がる世界が、私を包み込む。引きずり込むというのとは少し異なって、みるみるうちに森が見えてくる、竪琴が聞こえてくる、風が肌を撫で、葉の向こうから陽光が差してくる……そんな雰囲気があるのだ。とても美しい描写で、ずっとこの世界に浸かっていたい、と感じさせてくれる。だが、戦場の描写もそれと同じように生々しいのには、疲れてしまうのもまた事実だ。それだけ読者を世界の中にのめり込ませる力がある。ブーディカは、彼女の二人の娘は? 自分自身も命を危険に晒しながらも、愛する主君とその娘たちの生死が気にかかって仕方がなかった。

 

 サトクリフの作品については、毎回同じようなことを書いてしまうが、どの作品もそれぞれにそれぞれの味わいがあるので、本当にどれも読んでいただきたい。

 

 ところで、この作品の中に

部族の軍は(中略)第九軍団の〈鷲〉を奪い去った

 とある。これで反応せずにはいられないからさっそく調べてみたが、どうやら「第九軍団のワシ」でマーカスが取り戻したのは、紀元117年に奪われた、というものになっており、このブーディカたちの反乱が起きたのは紀元61年なので、また奪われたということなのだと思う。さすがにこんがらがってきたので、サトクリフの作品の時系列は、一度しっかり整理したいものだ。

 

 

おわりに

 ということで、サトクリフの「闇の女王にささげる歌」についてでした。本当に面白い作品です。さて、次回は荻原規子さんのエッセイ、「もうひとつの空の飛び方」についてになります。どうぞお楽しみに。それでは、またお会いしましょう。最後までご覧くださりありがとうございました!