はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリー・サトクリフ(表記は各文庫の表紙に従っています)の「ケルトの白馬/ケルトとローマの息子」についてです。この本には、表題の通り「ケルトの白馬」と「ケルトとローマの息子」の二編が収められており、両方ともサトクリフの魅力が存分に詰まった物語です。それでは、今回も五感でサトクリフの紡ぐ物語を存分に味わうことにいたしましょう。

 

「ケルトの白馬(「ケルト歴史ファンタジー ケルトの白馬/ケルトとローマの息子」ローズマリー・サトクリフ ちくま文庫 所収)」

 馬を放牧して生活するイケニ族の、族長の息子として生まれたルブリン。彼は、先住民族の褐色の肌を持ち、また、自然に込められた音や、動物たちの命の有様を描くことが好きだった。しかし、親友ダラをはじめとした一族の人々との平和な生活は、アトレバテース族の侵攻によって破られる。ルブリンは、一族を率いる役目を負うこととなってしまった。彼は、一族に再び平和の日々を取り戻すことができるのか。

 

 まず驚くのは、自然の生き生きとした描写だろう。緑の鮮やかさはもちろんのこと、その香りすらも文章だけで伝わってくるような感触が、たまらない。どこまでも美しい自然が、目の前に広がっている、そんな気すらした。

 

 そして、ルブリンもまた、どこまでも美しさを追求する彼らしい選択を見せてくれる。何かに熱中できるということ、熱中できるものがあるということの素晴らしさを彼の姿からは教えられた。

 

 雄大な自然の中で生きた、ルブリンたちの姿。それらは、今の私たちが失ってしまった、自然への愛着と尊敬に満ちていた。

 

「ケルトとローマの息子(同上)」

 この物語の主人公も、またローマ人ではなく土着の民として育ったベリックである。だが、彼は荒波の夜に、難破した船から奇跡的に助かった、ローマ人の息子だった。実の両親は難破時に命を落とし、ベリックはケルトの民の一員として成長した。しかし、凶事が一族を襲ったとき、周囲の目は異分子であるベリックに向けられる。彼は、ついに一族を追放されることになってしまった。彼は、自分の居場所を見つけ出すことができるのか。

 

 人というのは、とかく血縁に意味を求めがちである。血がつながっていさえすれば、理解しあえるし、逆につながっていなければ、赤の他人として切り捨ててしまう。とても分かりやすい論理だから、恐怖を感じたとき、ベリックの一族のように、皆はそれにしがみついてしまうのだ。

 

 ベリックは、そんな彼らに絶望し、血縁を求めてローマ人の町へ向かう。だが、そこにも彼の居場所はなかった。

 

 血縁や人種というのは、意味のあるように見えて、結局は何の意味もないものだ。サトクリフには、そのことをよく教えられる。それに頼りがちな人というものの本質が、見えてくるような気がするのだ。

 

おわりに

 というわけで、今回もサトクリフについてでした。次回もまたサトクリフの作品の中から何か読もうと思っています。キリスト教にも興味が出てきたので、そちらの方面ももう少し深めたいですね。それではまた次回。最後までお読みくださり、ありがとうございました!