はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、小野不由美さんの「黒祠の島」についてです。消息を絶った女性を探すため、調査所を運営する式部が訪れた、閉ざされた島、夜叉島で、彼が目にするものとは。

 

「黒祠の島」小野不由美(新潮文庫)

 これまで式部が何度もその調査を手伝ってきた、ノンフィクション作家の葛木志保。彼女は、式部に部屋の合鍵を渡し、すぐに戻ると言って旅立った。しかし、戻ってくる気配のない彼女を心配した式部は、足取りを追って九州の小島へ向かう。人口も少ない島で、どこか不自然な島民たち。いったいこの島で葛木の身に何が起こったのか。

 

 最初は、かすかな違和感だったものが、やがてははっきりとし、そして恐怖が迫ってくる。迫真に迫った描写に、鳥肌が立った。読者の心を自在に操る文章力というのか、構成力というのか、心の動きの隅から隅まで、作者に見透かされている気がする。毎回、やられた! と叫ぶ羽目になるのだ。

 

 そして、私はもともと神道や陰陽師のような、日本古来の信仰が好きなこともあって、本当にこの作品にのめり込んでしまった。小野さんのこういう方面の知識の深さには、感心する。日本はもちろん、中国の古来の妖怪などにも詳しく、それらが見事に作品の中の道具としてはめ込まれていて、感嘆の息が漏れる。私ももっとそのような方向の知識を深めたいと思った。

 

 ここから先は、十二国記の「白銀の墟 玄の月」と、この「黒祠の島」についてのネタバレが入るので、未読の方はご注意いただきたい。

 

 なんとなく思い出したのは、「白銀の墟 玄の月」の最後の場面だった。他の作品と比べて、「屍鬼」と「黒祠の島」は十二国記に近い気がする。両方とも、閉鎖的な、土着信仰が残る人口の少ない村を舞台に、その信仰が見事に生かされるのだ。

 
 

 

 特に「黒祠の島」は、かすかな望みにすがって、かぼそい糸を頼りに必死に歩んできた主人公を容赦なく絶望の穴に突き落とし、読者もそれに引きずられて希望を失う中で、実はその穴の先にダイヤモンドがありました、というようなどんでん返しのある構成が、実に「白銀の墟〜」に似ていると感じた。消息を絶った葛木志保を追う式部と、謀反にあって姿を消した驍宗を追う李斎の姿が、重なって見えた。雨の降る中で、出てきた黄色い合羽と、空を駆ける黒麒の姿も、それまでの重々しい調子の中で、まばゆく差し込んでくる光に感じられた。

 

 見事な構成と、最後の場面の明るさが、印象的な作品だった。

 

おわりに

 ということで、「黒祠の島」についてでした。次回は、同じく小野不由美さんの「鬼談百景」についてです。

 

 それでは、次回もお楽しみに。最後までご覧くださり、ありがとうございました!