はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。前回は、氷と炎の歌に戻ると申し上げましたが、本棚でその分厚い存在を主張していた屍鬼を手に取ったら、あまりのおもしろさに上巻を読み終わってしまいました。ですので、今回は屍鬼に関してになります。どうぞ、お楽しみください。
「屍鬼 上巻」小野不由美(新潮社)
舞台は、地方の山の中にたたずむ村、外場。製材業から発展したこの村では、亡くなった人びとを土葬にする、という古くからの風習があった。その村で、原因不明の奇病が流行る。村で唯一の医者、敏夫や、寺の副住職、静信が、その病の正体を突き止めようと奔走するが、努力虚しく、犠牲者はどんどん増えていき……。
私は、生来、ホラーが苦手だった。というか、ホラーを読まず嫌いしていた、というほうが正しいのかもしれない。自分はホラーが苦手だと、思い込んでいたのである。もっとも、宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語」シリーズなどは平然と読んでいたので、実は自分でも気づかないうちにホラーへの耐性ができあがっていたのかもしれない。
自己紹介でも書いた通り、私は十二国記が好きなのだが、小野不由美さんのホラー作品というと、「営繕かるかや怪異譚」の二冊を読んだのみであった。「魔性の子」も、十二国記の再読で書いた通り、敬遠して、「黄昏の岸 暁の天」までシリーズを通読したあとに読んだくらいだ。悔やんでも悔やみきれない……というのは前にも書いたし、本題からずれるので省略させていただくが、とにかくホラーは苦手だと、思い込んできたのである。
全くの勘違いだった。こんなに面白い作品を、敬遠してきたとは何事だ、と自分を叱りつけたい。視界が一気に開けて、新境地に達したような感触すらあった。得体の知れない病の謎、おびえる人びと。何が一体起こっているのかが気になって気になって、上巻を一日足らずで読み終えてしまった。
正直、この記事を書いている時間も惜しいくらいだ。自分なぞがこの作品について語るなんておこがましい、とすら感じる。早く下巻が読みたい。外場のたどり着く結末を、この目で見たい。そんな焦燥感を覚えるくらいに、熱中している。なんなら、死体の様子の描写が、「魔性の子」と似てるなあ、と考えてしまうくらいには、冷静さを持ち合わせていた。何が、ホラーは苦手……だ。一見は百聞にしかずという言葉もあるが、本当に先入観は良くないとしみじみ感じる。
ところで、阿部智里さんの「八咫烏シリーズ」に、「玉依姫」という作品があるのだが、なんとなくそれと似たものを感じた。もちろん屍鬼が先出なので、もし関連があるとしたらこちらが元なのだろうが、地方の、周囲から孤立した、妙な伝統を持つ村、という設定が共通のものとして根底にある。このシリーズも新刊が出るらしいので、今から楽しみにしている。
さて、ホラー特有の、得体の知れない恐怖が後ろから迫ってくる感じに、虜になってしまったようだ。一刻でも早く下巻を読みたいと思う。
おわりに
というわけで、「屍鬼」の上巻についてでした。次回は、「屍鬼」の下巻になります。氷と炎の歌は、後回しになりそうです、ごめんなさい。それではまた。最後までご覧いただき、ありがとうございました。